ドイツ&クロアチアから日本はどう見えたか? 中野吉之伴✕長束恭行✕宇都宮徹壱<1/2>
ファイナリストがアルゼンチンとフランスに決まり、いよいよ3位決定戦と決勝を残すのみとなった、2022年のワールドカップ・カタール大会。今週は当初の予定を変更して、緊急鼎談企画をお届けすることとしたい。
今回、鼎談に参加していただいたのは『フッスバルラボ』でお馴染み、ドイツはフライブルク在住のサッカー指導者でジャーナリストの中野吉之伴さん。そしてクロアチア・サッカーの伝道師、ジャーナリストの長束恭行さんである。それぞれの素晴らしい著書と翻訳書は、こちら(ぜひリンク先のレビューをご覧いただきたい)。
今回、中野さんと長束さんにお声がけをしたのは、ドイツとクロアチアから「日本はどう見えたか」を知りたかったからだ。今大会の日本は、初戦でドイツに対して見事な逆転劇で制し、ラウンド16でクロアチアにPK戦の末に屈することとなった。当然ながらサッカーは、相手のあるスポーツ。にもかかわらず、最近の日本代表をめぐる言説は、なぜか「一人称」ばかりで語られていることに、ある種の違和感を禁じ得なかった。
果たしてドイツとクロアチアは、どのようなチーム状態の中で準備をして、日本戦に臨んだのか。そして試合結果を受けて、彼らは今大会の日本の戦いをどう評価しているのか。現地の報道も引用しながらディープに語り合った本稿。ラウンド16が終了した翌日、急きょ思い立って集まった三者であったが、思いのほか楽しい内容となった。3位決定戦や決勝の前に、お楽しみいただければ幸いである。(2022年12月7日、オンラインにて収録)
<1/2>目次
*ドイツ代表のさまざまな負担を抱えていたビアホフ
*ドイツは「人権問題」で日本戦に集中できなかった?
*何かが「ズレ」ているドイツ代表に改善策はあるか
■ドイツ代表のさまざまな負担を抱えていたビアホフ
──中野さん、長束さん、今日はよろしくお願いします。今大会の日本代表の評価については、さまざまな指標や切り口があるかと思います。そこで初戦で勝利したドイツ、ラウンド16で乗り越えることができなかったクロアチア、この両国から今大会の日本代表がどう見えたのかについて語り合いたいと思います。まずは両国の現状について伺いたいのですが、中野さん、ドイツについてはいかがでしょうか?
中野 さすがに2大会連続GS(グループステージ)敗退なので、批判は非常に多いですね。当然、日本戦に敗れたのは大きかったです。大会前は「自分たちのやり方を貫いて、きちんと準備すればGSは突破できるし、いい結果を残せる」という考え方だったと思います。でも、そうならなかったわけですから、今後は「改革しなければ」という方向性になるでしょうね。
──代表チームダイレクターのオリバー・ビアホフも辞任したそうですね。ハンジ・フリック監督の立場も微妙な感じになるんでしょうか?
中野 どうでしょうね。少なくともフリックとビアホフは、強い信頼関係で結ばれていたので、相談相手がいなくなることを彼がどう捉えるのか。フリックがバイエルンの監督を辞任したのも、スポーツ・ダイレクターのハサン・サリハミジッチとの関係がうまくいかなかったことが原因でした。ビアホフの後任が誰になるか次第、ということでしょうね。
【編集部註】その後、フリック監督の留任が発表された。
長束 クロアチアにとってのビアホフといえば、日本戦には出場できなかった左サイドバックのボルナ・ソサの件が思い出されますね。彼は去年、ドイツサッカー連盟のビアホフが水面下で動いて、彼に最短でドイツ国籍を取得させた上で「代表はクロアチアでなくドイツを選ぶ」という話があったんです。でも22歳の時にクロアチアのU-21代表でプレーしているので、クロアチア国内では「それ、ルール的に駄目だろう」という意見と「ドイツ人が言うんだったら間違いないだろう」という意見が両方あって。
──長束さんによれば、彼の母親がドイツ生まれのクロアチア移民とのことで、国籍の取得はわりと容易だったようですね。ソサ自身、ドイツ代表になることを望んでいたんでしょうか?
長束 そうです。実際に「もう後戻りはない」くらいのことを言っていたんですが、よくよくルールを見直したら、ドイツ側の主張が間違っていたと。ビアホフの名前の聞くと、その時のことがまず思い浮かびます。
中野 あれは完全なケアレスミスで、ちゃんと裏取りすれば起こらなかったことなんですよね。では、なぜ起こってしまったかというと、ビアホフひとりにさまざまな負担が覆いかぶさっているというのがあったと思います。別にフォローするわけじゃないけど、彼は代表チーム以外にもアカデミーのダイレクターもやっていましたからね。おそらく「ソサ自身が問題ないって言っているよ」という話がノーチェックで上がってきて、こういう結果になったんだと思います。
──なるほど。一方のクロアチアは日本とのPK戦を制して、今度はブラジルと準々決勝を対戦するわけですが、本国ではどんな雰囲気なんでしょうか?
長束 クロアチアがワールドカップで対戦するのは、2014年ブラジル大会の開幕戦以来なんですが、西村(雄一)主審がブラジルにPKを与えたのが原因で、ブラジルに敗れているんですね。ですので、カタールにいるサポーターは日本戦を前にして「まずはニシムラの日本をやっつけて、今度こそブラジルを倒すぞ!」みたいな発言をTVでしていました(笑)。
──あの試合、私も現場で見ていましたが、1−1の状況でデヤン・ロブレンがフレッジを倒したということで、西村さんがPKの判定を下したんですよね。もう8年も昔の話ですが、いまだにクロアチアは根に持っているんですか(笑)?
(残り 4030文字/全文: 6349文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ