宇都宮徹壱ウェブマガジン

キーワードはエンタメ化とZ世代へのアプローチ デザイナーが考えるKリーグの現在地<1/2>

 カタールにおける、日本代表の冒険が終わった。SNSのタイムラインを覗いてみると、日本代表やワールドカップ8強に関する話題も盛んな一方で、来季に向けた国内サッカーの人事往来の話題も目立つようになった。例年よりも早く閉幕した2022年シーズン。例年以上に、来季の開幕を心待ちにしているファンは、きっと多いことだろう。

 そんな中、今週はあえてKリーグにフォーカスする。なぜKリーグなのか? それは来年で30周年を迎えるJリーグにとって、現在のKリーグから学ぶべき点が意外と少なくないのではないか、と考えるようになったからだ。その気付きを与えてくれたのが、私の仕事仲間でもある鈴木彩子さんである。

 鈴木さんは、グラフィックやエディトリアルの領域で幅広く活躍するデザイナー。私の過去の著書である『フットボール百景』のカバーデザインも、彼女が手掛けたものだ。一方で旅好きなサッカーマニアとしても知られ、5歳になる娘さんを連れて国内外のスタジアムを精力的に訪ね歩いている。

 コロナ禍の間はしばらくお休みしていたが、今年は元日本代表の天野純が所属する、蔚山現代FCのホームゲームを二度も訪れたとのこと。久々の韓国のスタジアムで彼女が見たのは、エンタメ化の方向に思い切り舵を切り、Z世代を中心とする若者層をしっかりファンに取り込んだ、日本のサッカーファンが知らないKリーグの姿であった。

「フットボールオンリー」だったのは、すでに過去の話。今のKリーグは、若者に対する訴求力もあるし、家族連れにも優しいし、マスコットだって愛くるしい。そして、すぐにでもJクラブに取り入れてほしい施策も、ひとつやふたつではない。

 今回は鈴木さんが現地で撮影した写真を交えながら、知られざるKリーグの現在地を紹介していただくことにしたい。(取材日:2022年10月25日@東京)

※写真はすべて鈴木彩子さん提供

<1/2>目次

*蔚山現代のマスコット「ミタ」に見るKリーグの変化

*集客に苦しんだ時代から「ソールドアウト」の時代へ

*子連れで海外サッカーを見るならKリーグがお勧め!

■蔚山現代のマスコット「ミタ」に見るKリーグの変化

──今日はよろしくお願いします。鈴木さんは昨日、韓国から戻られたのですね。

鈴木 はい、蔚山現代のホーム最終節を観に行ってきました。蔚山の優勝が決まったのは最終節の前週だったので、優勝の瞬間には立ち会えなかったのですが、素晴らしいセレモニーを楽しむことができました。

──蔚山は2002年のワールドカップの会場になりましたが、残念ながら私は行ったことがないんですよね。現代グループの大きな工場がある、重工業の町というイメージはありますけれど、無理やり日本のスタジアムに例えると、フクアリがあるあたりでしょうか?

鈴木 言ってしまえば、そんなイメージもあるかもしれません。海沿いであり、重工業都市であり、釜山からはKTX(韓国高速鉄道)で30分ほどの距離にある感じです。

──蔚山広域市の人口は116万人くらいですが、釜山と比べると観光するところはなさそうですよね? サッカーが無ければまず行かないような街という印象ですが。

鈴木 行かないかなって思います(笑)。私が初めて行ったのも、コロナ禍に差し掛かる2020年2月のACL。それから2年経って、Kリーグを見るために先月と今月の2回、いずれもサッカーのためでした。

──しかも娘さんと一緒ということですが、「また蔚山?」とか言われませんでしたか?

鈴木 蔚山現代には「ミタ」というトラをモティーフにしたマスコットがいるんですけど、娘はミタが大好きなんですよ。これまで娘を連れて、国内外いろんなスタジアムに足を運びましたけれど、蔚山でミタに会える時が一番、生き生きしているんですよね(笑)。

──なるほど(笑)。このミタですけれど、以前のクラブマスコットは、もっと勇ましいトラのイメージだったみたいですね(参照)

鈴木 そうなんです。ミタが登場したのって、わりと最近の話で、2020年にACLで蔚山に行った時、この子はまだいなかったように思います。その後コロナ禍、Kリーグのインスタなんかをチェックしていたら「おやおや、何か新しい子がいるぞ」と(笑)。ミタのアカウントもあるんですけど(参照)、かなりコミュニケーション能力も高い感じです。

──韓国のマスコットって、私のイメージでは2010年くらいはデザインが洗練されていたイメージがなかったんですが、最近はそれも変わってきた感じなんでしょうか?

鈴木 そうですね。最近はいろんなクラブのマスコットがリデザインされて、少しずつ今の韓国における「カワイイ」に寄せてきている印象を受けますね。スタジアムで売っているグッズなんかもすべて今風のデザインで、若い世代が買いやすい感じになっています。

──グッズを含め、ミタはスタジアムでどのように展開されているのでしょうか?

木 たとえばフェイスペイントのシールとか。日本代表戦などでもその場で頬に付けてくれるフェイスペイントのブースが出ていますが、水でポンポンと押さえてつけるタイプのものですね。あとはARカードですかね。

画像

──ARカードというのは?

鈴木 500円くらいで作れるカードなんですけれど、専用アプリを用いてカードにプリントされたQRコードを読み込むと、自分がスタジアムで撮影した動画や写真がスマートフォンに表示されるんですね。表面には蔚山の選手とホン・ミョンボ監督がランダムでプリントされるんですが、偶然にも天野純選手を引き当て娘は大喜びでした。けっこうな人気ぶりで、最終節に行ったときには、フェイスペイントもARカードも売り切れていましたね。

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