宇都宮徹壱ウェブマガジン

久々の日本で指導現場とメディアに感じたこと 中野吉之伴(フッスバルラボ主催)<1/2>

 今週はドイツ在住の指導者兼ジャーナリストで、タグマ!の「フッスバルラボ」を主催している中野吉之伴さんにご登場いただく。この夏、中野さんは家族連れで帰国。1カ月にわたって日本に滞在しながら、全国各地の育成指導現場に赴いては精力的にクリニックを行っていた。そんな多忙のさなか、ピンポイントのタイミングで取材に応じていただいた次第だ。

 私が中野さんと出会ったのは、2005年にドイツで開催されたコンフェデレーションズカップ(湯浅健二さんの紹介だった)。以来、17年にわたり付かず離れずの関係を続けていたが、コロナの影響で直接お会いするのは2年半ぶりだった。積もる話もある中、ぜひとも聞きたかったのが「今の日本がどう見えるのか」。それも彼の専門である、育成指導とジャーナリズムの観点から、それぞれ語っていただいた。

 気が付けば私も、最後に取材で日本を出てから3年が経とうとしている。ネットで得られる情報で、何となく世界と接しているつもりでも、発想や心情がドメスティックモードとなっている可能性は十分に考えられる。こういう時こそ、外側にいる友人の指摘は極めて貴重だ。今回のインタビューでも、中野さんから多くの気付きをいただいたので、皆さんにもシェアする次第である。(取材日:2022年8月23日@東京)

<1/2>目次

*「1ケバブで牛丼が2杯食べられる」2022年の日本

*「コロナがなかったらできたはずの経験」をどう埋める?

*オンラインとリアル、それぞれの強みを活かしながら

写真提供:中野吉之伴氏

1ケバブで牛丼が2杯食べられる」2022年の日本

──今日はよろしくお願いします。さっそくですが、久々に帰国してみて「日本のここが変わった」というのはありますか?

中野 3年半ぶりの奥さんと子供たちに比べると、それほど変化を感じることはないですね。あえて挙げるとすれば、たぶんコロナの影響もあるんでしょうけれど、キャッシュレスがかなり進んだという印象はあります。ドイツではまだ、スマホでの支払いは少ないように思います。どちらかというとクレジットカードやデビットカードでの支払いのほうが多いですね。アップルウォッチもだいぶ浸透していますけど、現金しか使えない店もまだまだ多いです。

──ドイツでは今、マスクを付けている人はほとんどいないですよね? 帰国してから、再びマスク着用を求められる空気については、いかがでしょうか。

中野 あえて人混みの中で外すことはしませんけれど、ある程度の距離感が保てる場所でしたら、ノーマスクにするようにはしています。帰国した直後は、この熱さの中でのマスクは大変でしたけど、建物や電車の中は冷房が効いているので苦ではなかったです。

──お子さんたちの反応はいかがでしょうか? 中3と小6だったと思いますが。

中野 そうです。長男は秋葉原のPCショップに入り浸っていました。ドイツには、そういうお店がなかなかないですし、ユーロで購入すると高いですからね。次男のほうは「うまい棒」を全種類購入して、幸せそうな顔をしていました(笑)。

──お子さんたちにしてみれば、日本のお菓子とかたまらない魅力でしょうね。

中野 それは間違いないですね。喉が乾いたら自販機でジュースを購入できるのも、彼らにとってはむちゃくちゃ新鮮だったみたいです。

──そういえばドイツって、ほとんど自販機を見ないですよね。

中野 ないわけではないですが、値段が高いし種類も少ないんですよ。その点、日本だとスーパーやコンビニでも安く買えるし、何より財布にやさしいのがいいですよね。長男なんかは「1ケバブでこんなに買えるんだ!」って驚いていました。

──「1ケバブ」ってなんですか?

中野 長男独自の単位です(笑)。ケバブ1つの値段で何が買えるのか、というのを彼は計算しているんですよね。今は6ユーロくらいですから、日本円で800円くらい。1ケバブで牛丼が2杯食べられるのが、子供たちには驚きみたいです。

──微笑ましくも、何だか複雑な気分になる話ですね(苦笑)。ところで帰国後、スタジアム観戦はされましたか?

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