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【無料公開】持ち越されてきた「だらしのない関係」 浦和レッズへの懲罰をどう考えるべきか

【編集部より】7月30日に埼玉スタジアムのゴール裏に掲出された横断幕(参照)を受けて無料公開としました。

 今週は、J1リーグの中断期間に行われた、EAFF E-1PSGジャパン・ツアーについて書くつもりであった。ところが昨日(26日)17時30分に行われたJリーグ理事会後の会見で、浦和レッズの懲罰が発表されたことを受けて、9割ほど書き上げた原稿を破棄。夜明け前に起床して、新たな原稿に書き直すことにした。

 今回、問題となったのは2件。まず、5月21日のホームでの鹿島アントラーズ戦。試合前の浦和のチームバス到着の際、およそ10分にわたって集団での声出し応援を行ったこと(一部ファンは「あごマスク」状態だった)。

 もうひとつは、7月2日のアウェーのガンバ大阪戦。アレクサンダー・ショルツが終了間際のPKを決め、同点に追いついた際にビジター応援席から複数名(裁定委員会の諮問によれば「少なくとも100名」)によるチャントが5分以上続いたこと。この時も当該サポーターの多くは「あごマスク」状態だった。

 5月21日の鹿島戦については「観客にホームスタジアムおよびその周辺において秩序ある適切な態度を保持させる義務」に、7月2日のガンバ戦については「試合の前後および試合中において、ビジタークラブのサポーターに秩序ある適切な態度を保持させる義務」に、いずれも明らかに違反すると判定。さらに「声を出す応援」の禁止と「マスクを着用する」ことが求められる、ガイドライン違反も問題視された。

 以上を受けて、浦和レッズへの懲罰内容は「けん責」と「罰金2000万円」。2000万円という罰金は、過去の懲罰での最高金額であり、今後もサポーターによる懲罰案件が繰り返された場合は《無観客試合の開催又は勝点減といった懲罰を諮問する可能性がある》と付言されている。これはJリーグが新体制となって、最も強く発せられた警告と言ってよい。

 詳細はこちらで確認していただきたいのだが、大前提として理解しなければならないのは、罰せられたのは「騒ぎを起こしたサポーター」ではなく、クラブであること。浦和レッズというクラブが、逸脱者に対する警告や処分を行わず、再発防止のための有効手段を講じてこなかったことに対して、厳しい罰則が採られたことである。

 それではなぜ、最初の不祥事発生から懲罰決定まで、2カ月もの時間を要してしまったのか。その理由については、7月5日の臨時実行委員会後のメディアブリーフィングで、野々村芳和チェアマンが以下の説明をしている。

「浦和レッズに対してJリーグは、再三にわたりステートメントの発行や再発防止策を講じるよう、現場の担当者間でやりとりさせていただきましたが、そうした対応が一度として出てきたことがありませんでした」

 つまり、クラブ側がJリーグの要請にきちんと向き合わなかったため、裁定委員会に諮問するための議論さえできていない状況が続いていたのである。そうした中、7月2日にも新たな不祥事が発生。3日後の実行委員会では、他クラブからも厳しい意見が出たこともあり、ここでようやく「全クラブと一緒に段階的な声出し応援を協力していく」コンセンサスを浦和と交わすことができた。

 野々村チェアマンが、具体的な懲罰について言及したのも、この日のメディアブリーフィングだった。ここで「勝ち点剥奪」や「無観客試合」の可能性も示唆したため、直後の試合では逸脱行為がピタリと止んだ。とはいえ、この時点で態度を改めたところで、クラブへの制裁を免れられるはずもなかった。

 以前のコラムで私は、一部の浦和サポによる「声出し」にJリーグが押し切られて、解禁を追認してしまうのではないか、という危惧を表明している(実際、そのような展開を期待する他サポも存在していた)。そして万一、そうなった場合のリスクについても、このように書いている。

 その場合、事はリーグのガバナンス崩壊にとどまらない。これまでJリーグのために我慢してきた多数派は大いに失望するだろうし、ライト層やビギナー層も「スタジアムは怖い」と感じて観戦を敬遠するかもしれない。(中略)いずれにせよ、逸脱者が「やったもの勝ち」となるような、アンフェアで反スポーツ的でだらしのないリーグなど、いったい誰が観たいと思うだろうか。

 とりあえず私の危惧は、回避されることとなりそうだ。チェアマンが替わっても、Jリーグのガバナンスがきちんと維持されていることに安堵している。逆に浦和のサポーターには、身内の逸脱行為が「村井案件」の一言で済ませられなくなったことを、この機会にしっかり自覚してほしいところ。とりわけアウェーでの禁止行為が、どれだけ迎える側(クラブ・サポーター問わず)に心理的な負担をかけてきたか、についても同様だ。

 サポーターもクラブも「プライド」を持つことはけっこうだが、それが間違った特権意識に変容するのは実に迷惑かつ危険な話である。リーグ戦は、競い合う仲間があって初めて成立する。そして当然ながら、仲間との共存を可能ならしめるには、一定のルールが必要。リーグもクラブもサポーターも、いつまでも「だらしのない関係」を続けるべきではない。今回の懲罰が、それらを断ち切る契機となることを強く望む。

<この稿、了>

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