宇都宮徹壱ウェブマガジン

「いわきFCを創った男」安田秀一がCEO退任前に語ったこと J3での好調と東京五輪への失望、そして日本の未来<1/2>

 4月5日、伊藤忠商事が《米国「アンダーアーマー」の日本総代理店 株式会社ドームの株式取得について》というリリースを発表した。株式会社ドームといえば、いわきFCの親会社。このニュースに少なからずの衝撃を受け、いわきFCの今後が気になってしまったのは私だけではないだろう。

 そのいわきFC、今季から参入したJ3で旋風を巻き起こし、第17節終了時で首位につけている。「日本のフィジカルスタンダードを変える」を合言葉に、ボールを使った練習よりもストレングストレーニングとサプリメント摂取に力を入れていた、いわきFC。当初の周囲の扱いは「色もの」そのものであり、当の彼らもまた「われわれはJリーグを目指しているわけではない」と、孤高の姿勢を崩すことはなかった。

 そんないわきFC、松本山雅FCの名波浩監督をして「われわれはいわきFCを見習わなければならない」と言わしめるほど、注目を集める存在となっている。そこで今週は、ドームの創業者にして「いわきFCを創った男」安田秀一さんにご登場いただくこととなった。取材のオファーは、伊藤忠のリリースが出た直後。それから2カ月後にご快諾いただき、CEO退任直前の貴重なインタビューが実現した。

 スポーツビジネスの論客である安田さんには、いわきFCの話だけでなく、東京五輪や日本の未来についても言及していただいた。当WMに託された貴重なメッセージ、しかと受け止めていただければ幸いである。(取材日:2022年6月22日@株式会社ドーム本社)

<1/2>目次

*株式会社ドームのCEOを辞することになった理由

*なぜいわきFCの現場に足を運ばなくなったのか?

*フィジカルが軽視されてきた日本のプロスポーツ界

株式会社ドームのCEOを辞することになった理由

──今日はよろしくお願いします。4月5日に発表された、伊藤忠商事によるドーム買収の発表、すごくびっくりしました。今月でCEOとしての任期が終わるようですが、今はどう過ごされているのでしょうか?

安田 まずは「自分を整える」という感じですかね。長谷部誠みたいですが(笑)。やっぱり大きな変化なので、精神状態を冷静に保つことが大事ですよ。それができていれば、判断を誤ることなく対応できると思いますので。

──安田さんは現在52歳。26歳で起業して、26年後にCEOを退任することになります。26年もの間、ずっと企業のトップで居続けるというのは、非常に大変なことだったと思うのですが。

安田 小学校1年から学級委員だし、中学では生徒会長だし、高校や大学のアメフト部ではキャプテンだし。生まれてからずっと、リーダーの役割を担ってきたんですよ。就職した商社を辞めてからも、ずっとCEOでしたからね。その間、区切ることができなかったので、ちょうどいいタイミングだったのかもしれません。

──三菱商事を退社して作った会社が、今度は伊藤忠に買われるというのも、なんだか一周回った感がありますね。

安田 実は僕、就活で伊藤忠も受けているんですよね(笑)。その前に三菱商事が決まったので、結果はわからなかったですが。僕の今後ですが、ドームにおける次のポジションがまだ決まっていません。今週中に伊藤忠さんと話し合いますが、何かしらの職には就くとは思います。

【編集部註】7月4日に「アドバイザー」に就任することが発表された。

──つまり当面、ドームを離れることはないと?

安田 まあ、そうなりますね。ただし現象面でいうと、今起こっている変化というものは、単に僕がトップでなくなるとかよりも、もっと大きな話なんだと思うんです。社会の変化、あるいは地球規模の変化。僕が宇都宮さんに、最後に取材を受けたのって、2年前だったじゃないですか(参照)

──2020年の4月初旬でしたから、緊急事態宣言の前でしたね。

安田 僕らぐらいの年代になると、2年なんて別にどうってことないじゃないですか。だけど18歳くらいの若者にとって、失われた2年ってとてつもなく大きいですよね。大学の学食では、いまだに黙食が行われているわけですよ。そういう経験をした世代が、これからごっそり社会に進出してくる。それに対して、受け入れる側の社会がずっと円安だったり、物価上昇が終わっていなかったりしていたら、どうですか?

──非常にやるせない話ですよね。次世代に何を残すかという話は、のちほどあらためて伺うとして、もう少しドームの話を聞かせてください。こちらに伺う前に、安田さんの動画インタビューを拝見しました(参照)。それによると、コロナで一番大変だった2020年に12億円の利益があったそうじゃないですか。どうも経営の失敗でトップの座を降りる、という話ではなかったように感じられたのですが。

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