宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】2002年ワールドカップから20年後の横浜で ヨコハマ・フットボール映画祭2022<1/2>

ダスラー兄弟が袂を分かつ理由となったベルリン五輪

©Weydemann Bros. GmbH

──中南米からヨーロッパに転じて、次はドイツ映画『はなれていても』。これはどういった作品ですか?

佐藤 子供が主人公の劇映画です。主人公の少年ベンは、暮らしていた街が炭鉱採掘地区に指定されたことで、立ち退きを余儀なくされ、新しい街に転校してきます。そこで馴染めなかったところに、シリア難民の少年タリクがやってきます。故郷を失ったふたりの少年の心の溝が、サッカーを通じて生まれた友情によって埋められていく、というのがあらすじです。

『はなれていても』というタイトルには、さまざまな意味での距離感が含まれていて、それらがひとつずつ解決されていくのですが、その過程で見せるベンとタリクの友情関係、ふたりの成長する姿に、思わず感動してしまいます。「子供×フットボール映画」として、とても素晴らしい作品なので是非見てほしい一作です。

──シリア難民の少年が出てくるということは、現代が舞台ということですよね。

福島 そうですね。ヨーロッパは「ジュブナイル映画」というジャンルがあって、小中学生くらいの男子や女子が主人公になる作品はよくあります。そうした中でも、この作品は大変に評価されていて、ヨーロッパの映画祭でいくつもの賞を獲得しています。

──それは楽しみですね。しかもゲストには、ドイツ在住の指導者でジャーナリストの中野吉之伴さんもオンラインで参加されるとか?

福島 そうです。作中にはサッカーシーンが多く出てきますが、ドイツにおいてサッカーが占める地位というものは、子供たちの世界でも日本とはかなりかけ離れていると思います。そのあたりの現状について、ドイツの育成現場に長年携わっている中野さんに解説いただければと思っています。

 

©Zeitsprung Pictures GmbH and G5fiction

──つづいて、同じくドイツの作品ということで『アディダスVSプーマ運命を分けた兄弟』。大学の講義で「アディダスとプーマの創設者は、実は兄弟なんだよ」という話をすると、ほとんどの学生が驚くんですよね。スポーツビジネスを学ぶ学生には、格好の教材になりそうですが(笑)。

福島 これは2015年の制作ですので、少し前の作品になるんですが、条件面がなかなか折り合わなかったので、ようやく今年の映画祭で公開する運びとなりました。まさに宇都宮さんがおっしゃるように、これは第1次世界大戦後にドイツで設立された「ダスラー兄弟商会」の物語です。世界一のスポーツシューズを作ろうとしたら、ナチス政権が誕生して、兄弟の運命を大きく変えていくわけですね。

 ダスラー兄弟のうち弟は天才的な靴職人ですが、兄の方はマーケティング担当なので、ナチスとどう上手く付き合うかを考えざるを得なくなる。そんな中で行われたベルリン五輪では、アメリカのジェシー・オーエンスという黒人ランナーが、弟の作ったスパイクを履いて金メダルを獲得するわけです。当然、ナチスとしては面白くないわけで、そこから兄弟が袂を分かつこととなるんですね。

──オーウェンはこの大会で、4つの金メダルを獲得するわけですが、兄弟が決別したのはそれが原因だったのですか?

福島 映画の中では事実が脚色されていますが、そこは大きなポイントだったと思います。一方で奥さん同士のいざこざがあったり、兄弟が徴兵されたり、TBSの日曜ドラマ劇場と大河ドラマの『いだてん』をかけ合わせたようなテイストになっています。

佐藤 そうかと思えば、ベルリン五輪を記録したレニ・リーフェンシュタールの『民族の祭典』を想起させる、荘厳なシーンも出てきます。スクリーンで見れば、ものすごい迫力が感じられると思います。

──この映画のゲストは、スパイクマイスターkoheiさん。どういう方ですか?

福島 スパイクについて語れる人ということで、若いスタッフに聞いてみたらkoheiYouTube動画を勧められました。今、育成年代の子たちの間では、カリスマ的な人気があるみたいです。スパイクマイスターとしての視点から、アディダスとプーマ、ぞれぞれの販売戦略の違いなどをお話いただければと思っています。

<2/2>につづく

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