宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】2002年ワールドカップから20年後の横浜で ヨコハマ・フットボール映画祭2022<1/2>

YFFF初となる「実況アナウンサーになりたい男の物語」

©Stuart Tree.

──次の作品ですが『Brothers in Football -100年越しの再試合』。これはもしかしたら、ブラジルのコリンチャンスとイングランドのコリンシアンズのお話ですか? 1910年にクラブが設立した当時、ちょうどコリンシアンズFCがブラジル遠征中で無敵の強さを見せつけていて、それにあやかろうということで「SCコリンチャンス・パウリスタ」になったという。

佐藤 ご存じでしたか、さすがです! そうした歴史的なストーリーはご存じなくても、2012年のクラブワールドカップで南米チャンピオンとして来日して、決勝が行われた横浜でサポーターが大挙して訪れたことを記憶している方も多いと思います。そのコリンチャンスにとって「兄」と呼ぶべき存在が、今はイングランド8部のアマチュアクラブとして存続しているわけです。

 実はコリンチャンスの新スタジアムが完成した時、親善試合に招待されたのがFCバルセロナでもレアル・マドリーでもなく、選手もスタッフも全員がアマチュアのコリンシアンズだったんですよ。しかも、この時の試合は100年越しの再試合であり、さらに言えば100年前から約束されていたという壮大な物語なんです。

──サッカー王国の名門クラブと、サッカーの母国のアマチュアクラブの100年にわたる物語って、確かに壮大な物語ですね。

佐藤 ちなみにこの作品の監督が、イギリスから来日することも決まっています。彼も元フットボーラーで、コリンシアンズでプレーしていたそうです。それと上映2日後の6月6日は、国立競技場で日本対ブラジルの試合が行われるじゃないですか。セレソンのチッチ監督は、先ほど言った100年越しの再試合の時にコリンチャンスの監督だったんですよ。ですから、劇的な再会があるかもしれないですね。

福島 ちなみにコリンチャンスといえば、10年前のクラブワールドカップ以外にも、いろいろ日本との縁があるクラブなんですよね。それこそセルジオ越後さんもプレーしていたし、浦和レッズにいたエメルソンや鹿島アントラーズにいたダニーロもそう。エメルソンやダニーロは、この作品の中にも出てきます。

©Kinesis Film House SA de CV, Adastr Films, SARL

──次はメキシコの作品で『バモス!ドミンゴ夢の実況席』。福島さん、解説をお願いできますか?

福島 今までいろいろなタイプの映画を上映してきたYFFFですが、これは初めてとなる「実況アナウンサーになりたい男の物語」です。55歳で職なし、奥さんにも逃げられたドミンゴが「自分はどんな仕事をすれば続くのだろうか」と考えたわけですね。そこで、子供の頃から憧れていたサッカーの実況アナウンサーを目指すことを決意して、そこから主人公の奮闘が始まるというストーリーです。

──これはドキュメンタリーではなく、ドラマですか?

福島 ドラマです。それもドタバタコメディで、最初は『ドミンゴはつらいよ』という邦題を考えたくらいドタバタが続きます。

佐藤 邦題については、YFFFのスタッフが何度も議論しながら決めていくのですが、一番多かった「ドミンゴ」に「バモス」と「夢の実況席」を加えて、このタイトルに決まりました。福島さんが紹介したように、本作はいわゆる「ダメ男のブルース」(笑)。なんですけど、ラテン的なペーソスが溢れていて、一味違ったコメディ作品に仕上がっています。

──スペイン語圏のサッカーの実況中継って独特で、日本のサッカーファンの多くは、1980年代に始まったトヨタカップで初めて接したんじゃないですかね。そういえば、日テレのアナウンサーが「ゴルゴルゴルゴルゴール!」なんて真似して、えらく顰蹙を買ったことを思い出しました(笑)。

福島 ありましたねえ。中南米には、ラジオでサッカー中継を楽しむ文化があって、そこから生まれたのが「ゴルゴルゴルゴルゴール!」なわけで、それだけを真似すると違和感しかないですよね。ちなみに作品が上映される前に、倉敷保雄さんと西岡明彦さんという日本を代表する実況アナウンサーおふたりをお招きしてのトークイベントも開催する予定です。

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