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サッカーファンはウクライナ問題とどう向き合うべきか? 服部倫卓と田邊雅之が語る「歴史の大転換期」<2/2>

サッカーファンはウクライナ問題とどう向き合うべきか? 服部倫卓と田邊雅之が語る「歴史の大転換期」<1/2>

<2/2>目次

*研究者と元日本代表がゲストに並ぶ日本のワイドショー

*世界は「ウィズ・プーチン」を覚悟しなければならない

*「ポピュリズムの極み」であるサッカーとの向き合い方

研究者と元日本代表がゲストに並ぶ日本のワイドショー

──ここで視点を変えて、今回のウクライナ問題を伝えている、日本のメディアについて考えてみたいと思います。服部さんは先日、NHKのニュースウォッチ9にご出演されていて、私も誇らしげに感じていたんですが(笑)。まずは、その時のお話から伺いましょうか。

服部 個人的には、久しぶりにちょっとドキドキしたっていう感じでしたね(笑)。これまでにも、BSで早朝の誰も見ないような番組とかには出ていたんですけど、ああいう国民的なニュース番組に、しかも21時に出演するというのはね。

──最近はお昼のワイドショーでも、ウクライナ情勢を積極的に取り上げています。私はあまり見ないのですが、服部さんはどうご覧になっていますか?

服部 意外と真面目に取り組んでいると思っています。最新情報なんかでも、わりと得るところがありますし、まとめ方も非常に上手いとは思いますね。ただしワイドショーのスタイルとして、ゲストにコメントを求めるじゃないですか。弁護士とか、作家とか、スポーツ選手とか。先日、出演させていただいた番組では、元ヴェルディの武田(修宏)さんとご一緒させていただいたんですが。

──あの人が、ウクライナ問題についてコメントするんですか?

服部 あと「ゲットゴール」の福田(正博)さんも、ご一緒したこともあります。その人たちをどうこう言うつもりはないですが、コメントを求めるならもう少し人選を考えてもいいんじゃないかとは思いますね。そうかと思えば、NHKの日曜討論なんかだと、気鋭の若手国際政治学者が出演して、現職の外務大臣をたじたじとさせる場面が見られたりもします。そういう、これまであまり目立たなかった才能に活躍の場が与えられるという意味では、ポジティブな現象もないわけではないです。

田邊 国際政治を学んだひとりとして、アカデミズムの方々に脚光が浴びるようになったのは良いことだと思いますし、同世代の研究者も活躍されているのは自分ごとのように嬉しいですね。とはいえ司会者や門外漢のコメンテーターが、不確かな知識に基づいたコメントでセンセーショナルに不安を煽るという、よろしくない傾向も見られます。

 たとえばですが、ワイドショーの番組終了間際に「プーチンが核のアラートを上げました」なんてコメントしたら、視聴者は慌てるじゃないですか。でも実際には、デフコン(編集部註:Defense Readiness Condition= 防衛準備態勢の略)と呼ばれる警戒態勢レベルを一段上げただけの話で、今すぐに核ミサイルのボタンを押すわけじゃない(苦笑)。「ネオナチ」のプロパガンダ同様、不確かな知識に基づいた安直な報道姿勢は、結果的にはプーチンを利してしまうことにもつながるんです。

──良くも悪くも、TVというのは「なるべくわかりやすく」というのがモットーですよね。私もあの業界にいたのでわかりますが、どうしても物事を単純化して伝えようとする傾向がある。それこそ「プーチンは悪でゼレンスキーは善」みたいな。けれども、服部さんのような専門家からすると「いやいや、そんなに単純な話じゃないんだけど」と感じることが多々あるのではないでしょうか?

服部 よく番組で「ウクライナは東西で違いますよね?」と聞かれるんですよ。東の方にはロシア語系住民がいて、親ロシアであるみたいな決めつけがどうしてもある。そういう「ウクライナ東西二分論」が出てきた時点で、その情報は価値がないと個人的には思っています。けれども、武田さんや福田さんが出てくるような番組だと、どうしても「15秒で説明してください」みたいなリクエストをされるんですね。そうなると、こちらも不本意ながら「東側では」みたいな説明をしなければならないんですよ。

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