宇都宮徹壱ウェブマガジン

今回のワールドカップは「コンパクト」ゆえに「ホテル難」 ちょんまげ隊長ツンさんによるカタール最新情報<1/2>

 2022年はワールドカップイヤー。皆さん、本大会に向けた準備は進んでいるだろうか?

 先日、大会のチケットが発売されたが、私の周りで「申し込んだ」と言っているのは、まだまだ少数派。いくらワールドカップイヤーといっても、今回は異例の11月開催であり、日本代表の本大会出場が決まっていないのだから仕方ないのかもしれない。

 まだ開幕まで9カ月あるとはいえ、なかなか本大会に向けての情報が周知されていかないのはなぜか。それは、開催国に関する情報が極めて限定的であることと、決して無縁ではないだろう。2年前から始まったコロナ禍の影響に加え、ワールドカップのデモンストレーションであるコンフェデレーションズカップがなくなったことも、地味に影響しているように感じる。

 カタールという国そのものは、サッカーファンにとっては決して馴染みの薄い国ではない。何度かワールドカップ予選で訪れているし、2011年にはアジアカップが開催されたので、私も1カ月にわたってドーハに滞在している。とはいえ、11年も昔の話。今大会の会場となるスタジアムはもちろん、地下鉄もまだ開通していなかった。

 日本代表のサポーターとして知られる、ちょんまげ隊長ツンさんは、実は昨年11月にカタールを訪れている。しかも「FIFAからの招待」というから驚きだ。ツンさんには今回、開催国カタールの最新事情について語っていただいた。「そろそろワールドカップ観戦の準備を」と考えている方は、ぜひとも最後までお読みいただきたい。(取材日:2022年1月17日@千葉県)

<1/2>目次

*ホームレス支援のボランティアでわかったこと

*東アジア代表のサポーターとしてカタールへ

*オマーンのサポーターに「オオサカ」と呼ばれて

カタールでの写真はすべてツンさん撮影

ホームレス支援のボランティアでわかったこと

──今日はよろしくお願いします。まずは近況から伺いたいのですが、年末年始は池袋で炊き出しの手伝いをされていたそうですね。

ツン そうなんですよ。年末年始は自分の家業である靴屋をひとりでやりつつ、池袋のホームレス支援のボランティアにほぼ毎日、通っていました。仕事、ボランティア、仕事、ボランティアの繰り返し。元旦も大晦日も靴屋を開けたので、珍しく勤労して過ごしていました()

──カタールの話は、のちほど詳しく聞くとして、まずはなぜツンさんが、池袋で炊き出しに参加することになったのか、教えてください。

ツン そこから聞いていただけるんですか? さすが宇都宮さん、ありがたいです。ネパール支援を一緒にやっていた友人から「コロナでなかなかボランティアが集まらない」という話を聞いていたんです。それで2019年の年末から「世界の医療団」お手伝いをさせていただいています。

──これまでのツンさんの活動って、災害ボランティアがメインでしたよね。災害が起こった地域に駆けつけて、避難所の人たちが必要としているものを届けたり、被災者が孤立しないようにイベントを開催したり。今回の場合、自然災害ではなく貧困が相手ですから、かなり勝手が違っていたのでは?

ツン そうです。普通の人から見ると「ツンさん、また何かやってる」くらいに思っているんでしょうけど、ぜんぜん違うんですよ。被災地支援に関しては、僕もそれなりに経験も実績も積んできているつもりでしたけど、貧困で困っている人へのボランティアは、びっくりすることばかりでした。宇都宮さんは、ホームレスってどんなイメージですか?

──中高年の失業者が、住むところを失って路上生活者になるイメージですよね。でも最近は、コロナ禍による雇い止めの影響で、若者や女性も増えていると聞きます。

ツン そうなんですよ。中高年のホームレスもいるんですけど、今は普通の身なりをしている若い人も、炊き出しの行列に並んでいるんです。コロナ前の2019年の年末、100人もいかないくらいだったのが、去年の年末は500人近かったんですよ。たった2年で5倍以上に増えている。株価が上がったとか、仮想通貨で10万円が100万円になったとか、そういう話がある一方でまったく違う現実があるわけです。

 想像してみてください。年末に紅白歌合戦とかゆく年くる年とかやっている時に、食べ物を求めて寒い中を2時間以上も並んでいる人たちがいるんですよ。しかも今はコロナなので、大鍋から温かい食べ物を出すことができないから、どうしても冷たいお弁当になってしまうんですよ。それでも、並んで待っている人たちがいる。しかも、ちゃんとしたコートやダウンを着ているんですよ。つまり、弁当代さえ浮かしたい事情があるわけですよね。

──僕らはどうしても「サッカーで何かできないだろうか」って考えがちですけど、被災地支援でできたことが貧困支援となると、なかなか難しそうですね。

ツン そうですね。被災地だったら、地元のJリーグや日本代表の試合に招待して元気づけることもできますけど、冷たい弁当を受け取るために寒空の下で2時間待っている人たちに「サッカー、見に行きませんか?」と言ったって、たぶん怒られるでしょうね。そういうエンタメの世界が、まったく必要とされていない世界があるってことを、まざまざと知らされました。

──そうした中でも、炊き出しを続ける理由って、ただ食事を配るだけが目的ではなかったのでは?

ツン そうなんです。実は炊き出しに来た人には、10日間くらい無料でビジネスホテルを斡旋してくれるんですよ。それから豊島区では、住所がない人でもコロナワクチンが打てるというセーフティネットがあるんですよね。医療相談や生活相談なんかのブースもあるし、生活保護の手続きを受けたら、毎月一定額のお金が入るんです。

──そういったタッチポイントを作ることも重要ですね。そこは被災地支援での経験が生きたんじゃないでしょうか?

ツン そう思います。ただ、これまでネパールとかエチオピアへの支援活動を通じて、厳しい貧しさというものを知ったつもりでいました。けれども、まさか自分たちの身近なところが、こんなに大変な状況になっていたとは……。そのことを今回の活動で、痛切に理解することができました。

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