宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】ちょんまげ隊の障がい者スポーツ体験会を取材して「TOKYO2020以後」を想う(2022年1月17日@柏の葉小学校)

「1月17日の月曜日、柏の葉小学校で障がい者スポーツ体験会をちょんまげ隊主催で行います。ゴールボール金メダリストの安達選手、デフサッカー女子日本代表の久住呂監督が参加してくれます。柏の葉キャンパス駅に9時集合。朝早いですが、取材していただけたらうれしいです!」

ちょんまげ隊長ツンさんから、そんなメッセージをいただいた。ちょうど書籍の仕事がひと段落して、そろそろ現場仕事が恋しく感じていたタイミング。加えて、いつもお世話になっているツンさんから「取材していただけたらうれしいです!」なんて言われたら、これは行くしかない!

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千葉県の柏の葉を訪れたのは、JFL時代のブリオベッカ浦安のホームゲーム取材以来。何の予備知識もないまま、集合場所からツンさんの車に乗り込んで、柏市立柏の葉小学校の体育館にお邪魔する。この日は4年生170人が参加。

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さっそく正装に着替えたツンさん。デフ女子サッカー日本代表監督の久住呂幸一さん(左)、そして手話通訳の森本行雄さんと直前の打ち合わせを始める。これまで何度も障がい者スポーツ体験会を開催しているツンさんだが、常に手を抜くことなく全力で取り組む姿勢が伝わってくる。

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オープニングはツンさんによる基調講演。知的障がい者サッカー、デフ(聴覚障がい者)サッカー、ブラインドサッカー、電動車椅子サッカー、CP(脳性麻痺者)サッカー、アンプティサッカー、そしてソーシャルフットボール。7つの障がい者サッカーについて、映像を交えながら紹介する。「障がい者は、決して可愛そうな人ではないんです。苦手なことがあるだけなんですよ」というツンさんの言葉に、子供たちは思わずうなずく。

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その後、子供たちは2つのグループに分かれて、それぞれ視覚障がいと聴覚障がいの世界を体感することに。視覚障がいの体験会をレクチャーするのは、ゴールボール金メダリストの安達阿記子さん。私はうかつにも知らなかったのだが、パラリンピックの団体競技で日本が唯一獲得したゴールドメダルが、2012年ロンドン大会でのゴールボールであった。

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ゴールボールは、鈴の入ったボールをゴロで投げ合い、得点を競うチームスポーツ。両軍3人ずつで行い、プレーヤーは「アイシェード」と呼ばれる目隠しを装着する。全盲状態でプレーするのは、ブラサカと同じ。アイシェードで視覚を封じられた子供たちは、鈴の音だけを頼りに転がるボールをキャッチしようとするが、なかなか上手くいかない。

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安達さんは14歳のときに右目、そして20歳のときに左目も障がいを負うこととなった。「視覚障がい」というと、全盲をイメージする人が多いが、それは全体の2割程度だという。安達さんの場合、視覚の中央部分が見えにくくなる弱視。2006年に国立福岡視力障害センターへ入所した際、ゴールボールという競技と出会い、2年後には北京パラリンピック出場を果たしている。

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続いて覚障がいの世界を体感する会場を取材。といっても、いきなりデフサッカーを体験するのは、小学生にはいささかハードルが高い。そこで「声出し禁止」というルールを設けて、子供たちは身振り手振りと表情だけでコミュニケーションすることが求められた。まずは、同じ誕生月でグループを作ることに。

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1月から10月生まれであれば、指の数で数字を表現することができる。では、11月と12月生まれの子供たちはどうすればいいのか? そこで久住呂監督が、手話による数字の表現を子供たちに教える。5本の指だけで1から10、さらに20、30、50、100と表現すると、好奇心旺盛な子供たちの瞳の輝きが増す。

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続いてのワークショップは、無言での伝言ゲームである。「ありがとう犬」「こんにちはネコ」といった、挨拶+動物を身振り手振りで伝えるのに四苦八苦する子供たち。そこで久住呂監督が、今度は手話による挨拶と動物の表現をレクチャーする。私も「ありがとう」「ごめんなさい」「犬」「ブタ」は覚えた。

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視覚障がいと聴覚障がい、両方の世界を経験した子供たち。再び体育館に集まって、安達さんと久住呂監督への質疑応答の時間が設けられる。私も大学で講義することがあるのだが、最後に「質問は?」と促しても、挙手する学生は非常に少ない。ところが柏の葉小学校の子供たちは、積極的に手を挙げて実にいい質問をするのだ。とても活発な反応に、司会のツンさんもうれしそう。

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ツンさんたちと子供たちとのやりとりを、瞬時に手話で久住呂監督に伝える森本さん。ツンさんによれば、手話通訳の日本での第一人者なのだそうだ。耳から入る言葉をアクションで伝える作業は、われわれが想像する以上に集中力と体力を要するので、本来であれば10分くらいで交代が必要。それをひとりでこなしていた森本さん、本当にお疲れさまでした!

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かくして、柏の葉小学校での障がい者スポーツ体験会は無事終了。しかしツンさんいわく「TOKYO2020以前と比べて体験会の依頼はめっきり減りましたね」。もちろん、コロナ禍の影響もあるだろう。だが、昨年のパラリンピック開催で高らかに宣言されていた「共生社会」が、お祭りが終わったとたんに萎んでしまっては、やりきれない思いが募るばかり。

そんな中、TOKYO2020以前も以後も変わらぬ気持ちで、障がい者スポーツ体験会を粛々と開催するツンさんの情熱には、本当に頭が下がる。そして今回の体験会を通して、柏の葉小学校の子供たちが、共生社会に理解のある大人に成長してくれることを願わずにはいられない。ここで、ツンさんから預かったメッセージを、皆さんに紹介することにしたい。

個々人の性格と同じように、障がいもさまざま。その事を伝えたくて2017年から、柏市と一緒に3つ以上の障がい者スポーツ体験会「MIX」を始めました。

この体験会を通して、障害を持った方の立場を経験するだけではなく、まずは「困っている人に会ったらどうサポートするか?」を学んでほしい。それが僕らの願いです。今回はコロナ対策の観点から種目を絞りましたが、これまで2500名以上が体験してきました。柏市には、本当に感謝しています。

僕らが、この体験会を始めたのは2011年。当時、ブラインドサッカー日本代表キャプテンだった、落合啓士さんが参加してくれました。この11年間で培ったメソッドをどんどん公開して、この方法ををパクってほしいという思いもあり、今回は尊敬する宇都宮徹壱さんに取材をお願いしました。

体験会の最後に「もし明日、駅で困ってる人を見たら、声かけできる人!」との問いかけに、多くの子どもたちが挙手してくれました。そんな瞬間を、あなたも見てみたいと思いませんか? ぜひ次は、あなたの町でもやってみてください。僕にできることがあれば、お手伝いします!

最後に、私からのお願い。ちょんまげ隊では、コロナ禍で大変な思いをしている障がい者サッカーのために、チャリティーTシャツの販売を続けている。私もグレーとブラックを買わせていただいたが、デザインが素晴らしいだけでなく着心地も抜群。しかも、障がい者サッカーのお役立ちになるのだから、言うことなしである。興味をもたれた方は、ぜひこちらからアクセスしていただきたい。

<この稿、了>

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