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【無料公開】広島と鹿島の新監督は無事にチームに合流できるか? オミクロン株が来季のJリーグに与える影響を考える

 1月7日、JFAは今月21日に予定されていた、日本代表vsウズベキスタン代表のキリンチャレンジカップの中止を発表。国内で1月27日(中国戦)と2月1日(サウジアラビア戦)に開催される、ワールドカップ・アジア最終予選については、予定通り開催することも併せて発表された。

 日本政府は、オミクロン株の水際対策強化により、外国人の新規入国を原則停止としている。しかし今回、ワールドカップ予選に関して「公益性と緊急性を考慮した」として、中国とサウジのナショナルチームの入国を認めることとなった。

 この決定を受けて当WMでは、ちょうど1カ月前の12月8日に掲載した、オミクロン株がサッカー界に与える影響についてのコラムを「無料公開」とすることにした。なお、コラム内に書かれてある情報は、行政書士の長友耕一さんに取材した12月7日時点のものである。【1月8日:宇都宮徹壱】

 悲喜こもごもの2021年シーズンが閉幕した。まだ天皇杯は残っているが、Jリーグアウォーズも終わり、ほとんどのJリーガーはこれから束の間のオフに入る。昔の人は「来年のことを言えば鬼が笑う」と言ったものだが、われわれサッカーファンは今のうちから考えなければならないことがある。あの「オミクロン株」が与える影響だ。

 南アフリカで、新型コロナウイルス変異株の存在が明らかになったのは、11月25日のこと。WHOが「オミクロン」と名付け、懸念される変異株に指定したのは翌26日。これを受けて、日本政府は29日に厳格な水際対策を決定し、翌30日には実施されている。こうした状況は、来季のJリーグにどのような影響を与えるのだろうか?

 先に結論めいたことを述べる。来季に向けてクラブが獲得した、外国籍の選手や監督の新規入国は、厳重な水際対策によって極めて難しくなる。選手はまだしも、監督がチームに合流できなくなると、これは死活問題以外の何ものでもない。すでにサンフレッチェ広島は、来季の新監督にドイツ人のミヒャエル・スキッベ氏を招聘することを発表。鹿島アントラーズも、これまでのブラジル路線から欧州路線に切り替え、その候補としてスイス人のレネ・バイラー氏の名前が挙がっている。

 そこで今回、海外から来日するアスリートのビザの発給や更新業務を専門に行う、行政書士の長友耕一さんにお話を伺った。長友さんには、浦和レッズのアレクサンダー・ショルツの入国が遅れた件について、今年7月にインタビューしている(参照)。今回はオミクロン株が、来季のJリーグに与える影響について、長友さんのコメントを引用しながら皆さんに共有することにしたい。

「まず最近の流れをお話しますと、海外からの入国の規制緩和が開始されたのは11月8日でした。それまで3500人だった入国者数の上限が、5000人に引き上げられたのが11月26日。それからわずか4日後、一転して入国に厳しい措置がとられることとなりました。昨日(12月6日)は、国内で3人目の感染者が確認されましたから、さらに水際対策は厳格なものになると思います」

 長友さんの見立てでは、岸田総理は水際対策のプライオリティを最も重視している。それ以前の政権では、自民党の外交部会で検討されたことが、翌日に実行に移されることがなかった。現政権のスピード感は、その意味で並々ならぬものが感じられる。ところでオミクロン以前、海外からのスポーツ選手の新規入国はどのようなものだったのだろうか。

「それまでプロ野球、Jリーグ、そしてBリーグの外国籍選手は、スポーツ庁に交渉して許可を得ることで『特例』として入国できていました。それが29日の外交部会で『あまりにも特例による入国が多いと水際対策の抜け穴となり、オミクロン株が流入する恐れがあるのではないか』という議論になったようです。その結果、新規入国を認める『特段の事情』のうち、公益性を理由とするケースについて『特に必要性、緊急性が高く、わが国の国益上、重大な損害が出る場合』のみとなりました。当然、ここにはスポーツは入りません」

 この結果、今月9日から12日の日程で行われる予定だった、フィギュアスケートのグランプリファイナルが中止。当面は海外から選手を招いてのスポーツイベント、さらには音楽や演劇などの大物アーティストの来日は難しくなると長友さんは見ている。

「デルタ株の時は、国内での感染拡大が理由で、海外から人を入れなかったわけです。でもオミクロン株については、海外での感染拡大を問題としているため、日本国内で緊急事態宣言をやっても意味がない。有効性があるのは水際対策だけです。政府の迅速な対応については、国民の評価も高いですよね。読売新聞の調査によれば、オミクロン株の水際対策を『評価する』としたのは89%。内閣支持率も6ポイント上昇して62%となりました。こうなると、入国制限がより厳しくなることはあっても、緩められることはないでしょうね」

 では、来季のJリーグの影響についてはどうか。ここでポイントとなるのは、外国籍の選手や監督が「再入国か、新規入国か」で扱いが大きく異なること。長友さんによれば「日本のビザが失効していなければ、再入国許可を得て出国することで、現在は問題なく再入国できます」とのことだ。

「シーズンが終われば、この人たちはいったん帰国して、それからまた始動前に日本に戻ってくることになると思います。現在、日本が再入国を禁じている10カ国は、いずれもアフリカの国々ばかり(アンゴラ、エスワティニ、ザンビア、ジンバブエ、ナミビア、ボツワナ、マラウイ、南アフリカ、モザンビーク、レソト)。ヨーロッパや南米の選手や監督は、ビザさえ失効していなければ、再入国許可を得て出国する事により、現在は問題なく再入国できます」

 つまり契約更新が決まっていたり、日本のクラブ間で移籍したりする外国籍選手の場合、日本のビザが失効していなければ再入国が可能ということだ。ちなみに長友さんによれば、プロスポーツ選手の場合、非居住者扱いとするために日本出国時にビザを失効させ、あらためてビザの取り直して新規で入国するケースが多いという(目的は税金対策)。しかし状況が状況だけに、クラブ側も指導しているはずだし、本人もその点は留意するだろう。問題は、新規入国の場合だ。

「現状では、新規入国はほぼ無理です。ですから、外国籍の新監督を迎えるのは、極めてリスキーといえるでしょう。今年の3月、足止めされていた選手や監督がバブル方式で入国できましたが、それも現政権では難しいと思います。そういえば、1月下旬から国内でワールドカップ予選があるんですよね(註:1月27日中国戦、2月1日サウジアラビア戦)。それについても『本当にできるんだろうか?』というのが率直な感想です」

 ちなみに、JクラブがACLのアウェー戦から戻ってくるのは「問題ないでしょう」。入国が厳格に禁じられているのは、あくまでも外国人の新規入国。それ以外の出入国で、来季のJリーグが深刻な影響を受けることはなさそうだ。最後に長友さんから、少しだけポジティブなコメントをいただいたので紹介したい。

Jクラブの社長さんとも、よくお話をさせていただくんですが、コロナ禍で何が一番大変かというと、やっぱり入場者の制限ですよ。でも来季は、入場者数が制限解除になるんですよね? 海外からの新戦力が入国できないのは残念ですが、少なくとも入場者数の制限がなくなることで興行収入は安定します。そこはポジティブに捉えてよいのではないでしょうか」

<この稿、了>

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