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【無料公開】チーム崩壊はロンドンから始まっていた? なでしこJAPANの敗北と再生をめぐる対談<1/2>

習近平体制で強化された中国女子

──オーストラリアに比べると、日本の大会への入り方は非常によろしくなかったですね。

上野 スカウティングのミスもあるなっていうのは感じていたんですよ。何人かの選手が「事前に聞いていたことと違う」って言っていたんです。オーストラリアだけでなく、韓国も中国も予想していたのとぜんぜん違っていたという。

──「こんなはずではなかった」の連続だったと。

上野 そう。それに加えて、コミュニケーション不足でミスも多かった。試合運びもチグハグだったし、修正する能力も非常に低かったし。

石井 僕は長居でオーストラリア戦を見ましたけども、あれほど悩んだ表情でプレーをしている選手たちを見たのは初めてでしたね。特に宮間選手と岩清水選手は、見るからに追い詰められたような表情をしていましたね。

上野 ちょっと話がそれるんですけど、なでしこが世界一になれた最大の武器は、守備戦術だったと思うんですよ。戦術革命に近いぐらいのことをノリさん(佐々木則夫)が短期間で作り上げた。監督就任から半年後の08年2月の東アジア選手権、北朝鮮戦でがっつり守備がはまったんですよね。

──そうそう、澤をボランチにしてね。

上野 中に追い込んでボール奪取して、ショートカウンターを仕掛けるっていう戦術が、がっつりはまって会心の勝利を挙げることができたのが8年前の北朝鮮戦。でも、そうした戦い方がロンドン五輪のときには、すでに研究されていたんですよね。なでしこのキャプテンだった磯崎さん(浩美。結婚後は池田)が言っていたんですけど、最終ラインからのフィードはすごく上手いんだけど、もっとラインコントロールをしっかりやったほうがいいと。実際、ロンドン五輪の決勝でカーリー・ロイドにミドルで決められたのも、日本のラインコントロールに課題があって、今回のオーストラリアもそこを狙ってきていましたね。

──なるほど。で、続く韓国戦には1-1で引き分けてしまい、中国には1-2で敗れてしまいました。正直、オーストラリア戦以上にショッキングな敗戦でした。

上野 中国については以前、トム・バイヤーさんにお話を伺ったんですけど、女子代表にしっかりお金をかけたり、監督にブルーノ・ビニを呼んできたり、ちょっと路線を変えてきている印象ですね。中国サッカーというと、どうしても広州恒大なんかに目が行きがちですけど、男女ともナショナルチームにもかなり力を入れてきていますね。中国はワールドカップ開催と優勝を本気で目指していますから。

──中国の女子については、90年代には非常に強かったのに、その後は低迷してロンドン五輪にも出場できませんでした。それが今、復活の兆しを見せているということでしょうか?

上野 中国では一時期、女子代表が放置状態になっていて、アンダー世代もなかなか勝てない時代が続いたんですが、習近平政権になって変わりましたよね。今回、08年の北京五輪で若手だった選手がひとりも入っていなかったんですが、それくらい選手間の競争も激しくなってきていると言えるでしょうね。

石井 ファンの立場から言うと、北京五輪ぐらいからなでしこを基準に他の女子代表を見比べているんですけど、去年のワールドカップをTVで見ていると、オーストラリアにしても中国にしても韓国にしても、以前と比べてすごく面白いサッカーをしているように感じられたんですね。つまりそれくらい、各国の女子サッカーのレベルが上がってきていて、気がついたら日本はすっかりキャッチアップされていたんだと思っています。

──アジアのライバルたちの成長については、佐々木監督も認識はしていたようですが、そのスピードが彼の予想以上だったということでしょうかね。

上野 それは絶対にあると思いますね。

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