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秋田と愛媛の経験がもたらした「大阪の奇跡」 間瀬秀一(モンゴル代表監督)<2/2>

秋田と愛媛の経験がもたらした「大阪の奇跡」 間瀬秀一(モンゴル代表監督)<1/2>

<2/2>目次

*3日間練習してきたセットプレーで34分に先制

*「今から一度も練習していないことをやるぞ!」

*「オシムさんの気持ちが少しだけわかった」理由

トップ写真提供:AKASAKA

3日間練習してきたセットプレーで34分に先制

──いよいよ6月7日、キルギス戦当日になりますが、報道によると来日したキルギス代表の選手とスタッフ39人のうち1人が陽性反応、19人が濃厚接触者に認定されていたそうですね。スタッフが14人で選手が5人、しかもGK3人が含まれていました。当然、こうした情報を間瀬さんも把握していたと思いますが。

間瀬 まず思ったのが、39人も入国していたというので「予算があるんだな」と(苦笑)。モンゴルは少数精鋭の低予算でしたから。相手に陽性反応の選手が出たからといって、自分たちが有利になったという考えはありませんでした。ただし試合前、相手はフィールドプレーヤーがGKをやることになったことを知って、少しはこっちに風は吹いたかなと思いましたね。

──GK3人が濃厚接触となると、そうせざるを得ないですからね。

間瀬 でも実際に試合が始まってみると、キルギスがほとんどの時間でボールを支配していて、GKがフィールドプレーヤーでもあまり関係ないなと(笑)。むしろ足元が上手いし。

──そんな中、モンゴルが34分に先制するんですよね。FKから頭で合わせてネットを揺らしたわけですが、やはりセットプレーを重視していたんでしょうか?

間瀬 逆の言い方をすると、流れから点を取るのは難しいと思っていました。セットプレーのトレーニングって、クラブチームだったら試合の前日にやることが多いと思うんですけど、それよりかは回数を重ねましたね。リモートの時も、スタッフを通してやっていましたし、直接指導したのは試合前の3日間。実は日本でのトレーニング中、僕は1回だけ選手を怒鳴ったことがあったんですが、それがセットプレーの練習でした。

 攻撃側の練習の時、サブのメンバーにはキルギス役として守ってもらうわけです。それでボールを奪ったら、思い切りカウンターをかけてほしかった。なぜならキルギスは、セカンドボールからのカウンターが得意ですからね。ところが、キルギス役の選手たちが、それをやらなかったので「ちゃんと試合から逆算してプレーしているのか?!」って、思わず怒鳴ってしまいました。

──そういう出来事もあったからこそ、セットプレーから先制できた時は、監督としてうれしかったのでは?

間瀬 そうですね。スタッフと選手がいろいろ工夫しながら、セットプレーのトレーニングを積んでくれた結果が、あの得点につながりました。相手は急造のGKでしたけれど、あれは本職でも防げなかったと思います。

──先制した時間が34分ということで、残り時間はまだかなりありましたよね。どのようなゲームプランを考えていたんでしょうか?

間瀬 まず考えなければならないのが、相手とのコンディションの差です。キルギスは、ずっと国内リーグをやっていたし、キルギス代表の監督は国内の強豪クラブの監督と兼任です。それに対してモンゴルは、先ほども言いましたけれど国内リーグは行われていませんし、ボールを蹴り始めたのは試合の2週間前。しかも監督は就任したばかりで、言ってみれば「ぶっつけ本番」だったわけです。これって、えらいハンディですよね。

 なので、僕のゲームプランはシンプルです。全員が持っている体力を、90分間の中で出し切ること。もちろん、全員が90分間走れるわけではないので、そうでない選手には「ペース配分のことは考えなくていいから、最初からフルスロットルで行ってくれ」といいました。それで走れなくなったら、すぐに交代カードを切ると。逆にベンチスタートの選手には「早い時間帯からの投入もあるかも知れない」と伝えました。

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