宇都宮徹壱ウェブマガジン

盆踊りとサッカー観戦、それぞれのオンライン化 大石始(音楽ライター『盆踊りの戦後史』著者)

音楽✕サッカー著者対談 『盆踊りの戦後史』大石始 『フットボール風土記』宇都宮徹壱

 今週は、昨年12月に『盆踊りの戦後史「ふるさと」の喪失と創造』を上梓した、音楽ライターの大石始さんとの対談をお届けする。動画による前半部分を受け継ぐ形で、後半部分となる本稿では「コロナ時代のイベントのあり方」がテーマである。

 先週、緊急事態宣言の継続を受けて、Jリーグは入場者数の上限設定とビジター席の有無に関する「試合開催方針」の発表を行った(参照)。遠征を楽しみにしていた方々には、お気の毒としか言いようがないが、一方でリモートマッチ(無観客)とはならなかったことには安堵している。昨シーズン同様、声を出しての応援は禁止されるものの、それでも熱のこもった拍手や手拍子の中で、選手たちはプレーできるからだ。

 コロナ禍にあっても、ある程度の観客を入れて行われたJリーグに比べると、中止が相次いだ盆踊り業界は気の毒だったと言わざるを得ない。楽しみにしていたファンはもちろん、盆踊りの伝統を守り続ける人や生計を立てている人にとっても、苦渋の決断だったに違いないからだ。そんな中、昨年はオンラインによる盆踊りを模索する動きが同時多発的に生まれ、それが思わぬ効果を生み出すことになったという。

 コロナ禍でのJリーグ開催も2シーズン目も迎え、新たな観戦スタイルも少しずつ定着しつつある。こうした「新しい生活様式」は、もはや「集まる」という行為そのものを無効化しつつある。その一端を盆踊りという、少し違った角度から考察する一助になれば幸いである。最後に、今回の対談に快く応じていただいた大石さん、そして素晴らしい写真をご提供していただいた奥様の慶子さんに、この場を借りて御礼申し上げたい。(2021年1月24日@東京。トップ写真:大石慶子氏)

<目次>

*盆踊りとサッカーは「街づくり」の部分で共通点がある?

*盆踊りの「オンライン化」がもたらしたポジティブな影響

*『東京五輪音頭2020年バージョン』が定着しない理由

盆踊りとサッカーは「街づくり」の部分で共通点がある?

──今回の対談が実現したのは、大石さんが『フットボール風土記』をご自身で購入されて、しかも付箋だらけの状態になるまで読み込んでいただいたことです。もともとサッカーというか、スポーツの書籍はよく読まれるのでしょうか?

大石 ほぼないです。そもそも僕の場合、フットボールに関しての知識というのは、ほぼゼロに近いですね。それでも、宇都宮さんの本を読んで思ったのが、フットボールと盆踊りとの共通性。「こんなにあるんだ!」って、自分でも驚いてしまいました(笑)。

──そう言っていただけると、ますます嬉しいですね(笑)。大石さんはどのあたりに、フットボールと盆踊りの共通性を感じましたか?

大石 「街づくり」や「地域コミュニティ」の部分ですね。動画でもお話しましたが、地域に新しい住民が入ってくるとコミュニティは時代と共に変容していくわけで、地域の盆踊りもそれに合わせて変化していかないと廃れていくんですよ。地域コミュニティの形と盆踊りは、常にセットになっていますから、ただ「これをやりたい」だけでは駄目なんです。地域の中でどうフィットしていくか、ダメ出しされながら新しいものに作り変えられていく。そのプロセスが、地域のクラブが作られる過程に似ているように感じました。

 たとえば以前、神奈川県のいちょう団地のお祭りを取材したんです(参照)。ここは外国人や他国にルーツを持つ人が、住民の2割から3割を占めるという多国籍団地なんですけど、カンボジアやベトナムから来た人たちも楽しめる、持続可能なお祭りを立ち上げたんですね。この考え方なんかは「地域の外国人との接点を増やすために、コミュニケーションツールとしてのサッカーを重視している」というクリアソン新宿の発想とかなり近いですよ。

──確かにそうですね。サッカーが地域コミュニケーションのきっかけになったり、あるいは地域に雇用を生み出して人口流出に歯止めをかける一助になったり、という話はサッカーに詳しくない方でも心に響くという確信は、実は密かにありました(笑)。

大石 地域に雇用を生み出すという話では、いわきFCがそうでしたね。コバルトーレ女川なんかも、引退後に地元に定住する元選手が多いという話もありましたし。もはやスポーツという限定的な領域だけでなく、地域社会をどう作っていくかというスケールの話ですよね。残念ながら盆踊りは、まだそこまではいっていないですが。

──たとえば地域の伝統的なお祭りの担い手として、太鼓の打ち方を学びたい若者を募集して、地元の企業で働きながら夏の盆踊りで活躍してもらう、みたいな?

大石 さすがにそういう話は聞かないですが(笑)、宇都宮さんの本を読んでいると、郷土芸能の地方留学みたいなことって可能なんじゃないかって思いますね。たとえば青森のねぶたの絵師になるために、県外から弟子入りするような若者って、一定数いるわけですよ。もちろん一人前の絵師になるには、それなりに厳しい世界みたいです。それでも「あそこに行けば、工場で仕事をしながら伝統的な盆踊りを学べる」みたいはことって、絶対にできない話ではないと思うんですよね。

 ただ、やっぱりサッカーのほうが、かなり進んでいる印象です。いわきFCなんかでも、クラブハウスに高級車のショールームやレストランがあって、地元の新名所になっているわけじゃないですか。観光客を呼び寄せる一方で、人工芝グラウンドを一般に開放して地域コミュニティの場にもなっている。いわゆるインバウンドの手法って、今までもいろいろあったと思うんです。それだけではなく、地域にどうやってコミュニティを作っていくのかということを、いわきFCがきちんと考えているのがすごいと思いましたね。

──そこまで読み込んでいただけるとは! 本当に著者冥利に尽きます。

大石 ですから、サッカー好きではない人たちにも、本当に読んでもらいたい。もっと言えば、僕の本を読んでくれている盆踊り好きとか、伝統芸能に関わっている人たちにも推薦したいと思っています。

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