宇都宮徹壱ウェブマガジン

ひとつの時代を終えた松本山雅にどう向き合うべきか? 短命に終わった「布時代」をサポ目線で考える<1/2>

 松本山雅FCの布啓一郎監督が、9月25日に解任された。直近の第21節、ホームでのFC琉球戦で16という大敗を喫し、この時点で4勝7分け10敗の20位。今季は降格がないとはいえ、降格圏内であることは間違いなく、反町康治監督時代からの「気持ちの切り替え」に腐心していたサポーターの思いは複雑であろう。ちなみにシーズン途中での監督解任は(少なくともクラブがJリーグを目指すことを宣言した2005年以降では)、11年の吉澤英生監督以来のことだ。

 今回の山雅の監督交代に関して、タグマ!の『サッカーの羅針盤』で、河治良幸さんが同業の元川悦子さんと激論を交わしている。大変興味深く読ませていただいたが、識者の意見だけではない、地元のファンやサポーターの思いというものも形に残しておく必要性を感じていた。たまたま先月、3人の山雅サポにリモートでの座談会を実施。まだ布監督の解任前だったので、「今年の山雅とどう向き合うべきか」について語っていただいた。突然の解任を受けて、急きょ前倒しで掲載することとなったのが本稿である。

 参加していただいたのは、こちらの3人。映画『クラシコ』にも出演していた、元太鼓担当の「シンさん」こと住山修次さん。2年前にMatsumotopanというベーカリーをオープン、それ以前はほとんどのアウェーに参戦していたという細川ひとみさん。そして3人の中では最もサポーター歴が短く(といっても5年以上)、スタジアム観戦の頻度は最も高い平林怜さん。今回はゴール裏のコアサポではなく、クラブの歴史と地域との関係性を俯瞰的に語れる方々を意識的にチョイスさせていただいた。

 本稿をお読みいただければわかるが、今回の座談会はクラブやチーム批判を目的したものではない。今季から指揮を執る布監督についても、まず長期政権後での難しさがあっただろうし、コロナ禍の影響や怪我人の続出など同情すべき面も少なくない。そうした背景を整理した上で、今季の低迷の原因と「サポーターが今できること」について語り合っている。山雅は今年、クラブ設立から55周年。いずれ「そんな時代もあったよね」と笑える日が来ることを、今は願って止まない。(収録日:2020年9月11日)

<1/2>目次

*「練習を見学できなくなった」影響とは?

*最終ラインが一気に若返ったことへの是非

*山雅のホームタウン担当が感じる「危機感」

「練習を見学できなくなった」影響とは?

──住山さん、細川さん、平林さん、今日はよろしくお願いします。まずは簡単な自己紹介からお願いします。年齢順で、シンさんから。

住山 住山といいます。山雅は2005年から見始めて、07年から11年までゴール裏で太鼓を叩いていました。今は普通のおじさんとして(笑)、スタンドの隅っこから見ています。

細川 細川ひとみです。山雅は北信越リーグの最後のほうから見始めて、よくアウェーの遠征にも車で行っていたんですけど、18年に松本でベーカリーを開業してからは、もっぱらDAZN観戦です。最近は「スマイル山雅農業プロジェクト」に参加していて、ユースの子たちが収穫した青大豆を使ったパンを作ったりもしています。

平林 シンさんの紹介で参加させていただきました平林です。松川村に住んでいて、山雅を積極的に参加するようになったのはJ1に昇格した15年から。そのうち(やきとりはうす)まるちゃんの常連客になったり、グッズのサポーターズミーティングに参加したりして、少しずつ山雅サポの友人が増えている感じですね。今日はよろしくお願いします。

──というわけで、バックグラウンドもサポーター歴も異なる皆さんですが、共通点としてはゴール裏にいるゴリゴリのサポではないということ。少し引いた視点からクラブを応援していること。そして負けが続いても、たとえ降格しても、山雅を見捨てることはないということ。以上の認識で相違ないですね?

全員 ないです!

──結構です(笑)。さっそくですが、直近のホームでのモンテディオ山形戦(10)、そしてアウェーでのレノファ山口戦(22)についてのご意見から伺いたいと思います。平林さんから手が挙がりましたね。

平林 山形戦はスタジアムで観戦していましたが、ひたむきに勝利を目指す雰囲気が、チームからもベンチからも感じることができました。もはや戦術うんぬんではなく「ここを落としたら後がない」という必死さがビシビシ伝わってきましたね。それがPKでの決勝ゴールに結び付いたんだと思います。山口戦での同点ゴールもそうですよね。アウグストが「このチームに必要なのはパッションだ」と言っていましたが、本当にそう思いました。

住山 この2試合に関しての感想は、平林さんと同じなんですけど、僕はJクラブになる前の山雅のサッカーを見ているので「昔はこんな感じだったよなー」って思いながら見ていましたね、それこそ松田直樹が来る前は「山雅は必死で点を奪いに来る」とか「気合で相手をビビらせる」みたいな感じで言われていましたよ。山形戦も山口戦も、土壇場になって点がこっちに転がり込む展開だったじゃないですか。今後も安定した戦い方は難しいかもしれないけれど、劇場型の試合は期待できるんじゃないんですかね。

──まさに「山雅劇場」な展開でしたよね。ひとみさん、いかがでしょうか?

細川 シンさんがおっしゃるように「昔はこんな感じだったよね」というのは、確かにそうだなって思いました。試合以外のところで言うと、今年に入ってからはサポーターが自由に練習場を見学できなくなってしまったのが大きいように感じます。

──今も見学は禁止ですか?

平林 禁止です。密になりかねないので。

細川 たとえば去年だったら、監督の戦術や選手起用の意図なんかを、トレーニング場で確認することができたんですよ。結果は結果として受け止めつつも、監督が何を目指していたのかは、サポーターの間で共有できていたと思うんです。でも今年は、そういった情報の咀嚼(そしゃく)がない中で、いきなり試合を見るということになってしまった。そういう部分でのストレスみたいなものは、確かに感じますね。

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