「一からクラブを作る」やりがいと難しさ 大倉智代表が語るいわきFCの4年間<1/2>
1月14日、今季のJFLの開幕カードが発表された。開幕日は3月15日の日曜日、いずれも13時キックオフ。それぞれのカードは以下のとおりである。
Honda FC vs ラインメール青森
ソニー仙台FC vs 松江シティFC
東京武蔵野シティ vs 高知ユナイテッドSC
テゲバジャーロ宮崎 vs ヴィアティン三重
FC大阪 vs ホンダロックSC
FCマルヤス岡崎 vs ヴェルスパ大分
鈴鹿アンリミテッドFC vs MIOびわこ滋賀
奈良クラブ vs いわきFC
注目は何と言っても、奈良クラブといわきFCとの顔合わせであろう。昨年11月から12月にかけて、両者はまったく異なるベクトルでサッカーファンの注目を集めたことは、記憶に新しい。不祥事による社長交代で心機一転を図る奈良。そして「日本のフィジカルスタンダードを変える」というテーゼの下、初めての全国リーグに臨むいわき。普段JFLを見ないサッカーファンでも、やはり気になるカードである。
ところでいわきといえば「フィジカルと走力」「アンダーアーマー」「天皇杯での大番狂わせ」といったイメージで語られることが多い。いずれも間違っていないのだが、個人的にもっと注目されてほしいのが「福島県2部から4シーズン連続で昇格してJFLにたどり着いた」という事実。彼らは「一からクラブを作る」状況からスタートし、飛び級制度を使わず一段一段ステップアップしながら、ついに全国の重い扉をこじ開けたのである。
そこで今回は、いわきFCの代表で総監督の大倉智さんのインタビューをお届けする。お話をうかがったのは、地域CL決勝ラウンド2試合目でJFL昇格を決めた翌日(昇格決定後、最初の単独インタビューとなった)。大倉さんには、いわきの社長となってからの4年間を振り返りつつ、今後いわきがどういう方向に進むのかについても語っていただいた。一見すると順風満帆に見える4年間。それでも外側からはわからない、さまざまな葛藤があったことが、本稿からは読み取れることだろう。
最後に、余談。このほど本田圭佑が新しい社会人クラブのオーナーになり、東京都4部から挑戦することが発表された(最近はこんなハッシュタグも話題になっている)。都道府県リーグから全国を目指す難しさは、東京でも福島でもそれほど変わらないはず。その意味で本稿は、ぜひケイスケホンダにも読んでいただきたい、と密かに願う次第だ。(取材日:2019年11月23日@いわき)
<目次>
*「目の前の一戦一戦を勝って」実現したJFL昇格
*「一足飛びにJFL」という発想にならなかった理由
*「選択と集中」と「ホームタウンを広げる可能性」
*いわきFCは「Jリーグのアンチテーゼ」なのか?
*「スタジアムを作ってください!」への違和感
*目標は「地域にとってかけがえのない存在になること」
■「目の前の一戦一戦を勝って」実現したJFL昇格
──まずは地域CL2位以内確定、おめでとうございます。クラブの代表として、今の率直な感想からお聞きしましょうか。すごくうれしいのか、ほっとしているのか、それとも「まあ、こんなものか」という感じなのか(笑)。
大倉 純粋にうれしいですね。うれしいし、ホッとしています。僕自身は湘南ベルマーレの社長時代、J1とJ2を行ったり来たりという経験をしています。それでも日本サッカー界の構造を考えた時、地域リーグからJFLに上がっていく階段が最も難しいということは、昔から認識していました。
──福島県リーグ2部から東北リーグ1部まで一気に駆け上がり、今年も18試合で104得点の4失点というとんでもない強さで優勝しました。それでも初めての地域CLには不安がありましたか?
大倉 ありましたね。1次ラウンドが3試合連続であって、決勝ラウンドは1日おきでの開催。しかも実力以外での運みたいなものも必要なんだなということを、経験者の話を聞きながら感じていました。あのFC今治だって、岡田(武史)さんが会長になってから2年かけて、ようやく地域CLを突破していますからね。ですから「一度は経験してみないと」という思いを持ちながらも、大会が始まってみるといろいろなめぐり合わせもあって勝ち上がってきた、というのが実際のところです。
──やっぱり1次ラウンドを秋田で、そして決勝ラウンドを福島でできたというのも、大きかったんでしょうか?
大倉 そこもやっぱり、めぐり合わせでしょうね。1次ラウンドでも多くのサポーターが会場に駆けつけてくれましたし、選手の間でも「勝ってJヴィレッジに戻ろう!」が合言葉になっていました。もちろんJヴィレッジは、純粋な意味でのホームではなかったですけど、同じ(福島県)浜通りということで僕らも身近に感じていましたから。僕は神様というのはあまり信じないんですけど、このクラブを通して震災復興に少なからず貢献してきたと思っているので、多少のご褒美をいただくことができたのかなって思っています。
──なるほど。秋田での1次ラウンドでは、VONDS市原FCやFC TIAMO枚方と同組になって「死のグループ」と言われていましたけれど、実際に戦ってみていかがでした?
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