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【無料公開】蹴球本序評『裸のJリーガー 知られざるセカンドキャリアの光と影』大泉実成著

 以前、版元であるカンゼンさんとの打ち合わせの際にいただいたもの。初版が今年の7月24日なので「新刊」というわけではない。しばらく積読状態だったのだが、丸山龍也さんへのインタビューでセカンドキャリアについて取り上げたこともあり(参照)、あらためてページをめくってみた次第。まずは「プロローグ」から引用しよう。

 この本では現役時代もハード、引退してからもハードという、Jリーガーたちのリアルを追ってきた。ところが、僕はもう一つのハードを見落としていた。それは、当たり前のことだが、Jリーガーになるための「ハード」である。そして僕にこのことを気づかせてくれたのは、取材の過程で何度か『5万円Jリーガー』という言葉を聞くようになったことだ。はじめ僕は『本当かよ』と信じることさえしなかった。

しかし、彼らは実在した。しかもJリーグには『それは当然』という空気があった。これは一体何なのだろうか。サッカー専門のライターではない僕はその空気が全くわからなかった。今回の取材で『なるほどこういうことだったのか』と腑に落ちた次第である。むろん、そのあり方に賛成はできないが。

 いかがであろうか。いわゆる「5万円Jリーガー」の存在は、私もこれまでの取材の中で認識はしていた。が、当人たちがその実態を赤裸々に語るグループインタビューの内容は、私にとってもかなり衝撃的であった(もちろんクラブ名は伏せてあるが)。

「まあ夢を追いかけて来たわけなんですけど、やってみるとボランティアみたいな気がしましたね。はじめは。とにかく移動とかが自腹だったんですよ」(選手A

「給料未払いというのもありましたね。(某JFLの)チームXの時。ずーっと。給料日に入ってないとか、少ないとか、明細もないので、自分たちで確認して」(選手B

 このインタビューの時点で、彼らはJ3のクラブに所属しているという。さすがに「移動が自腹」とか「給料未払い」といったことはないだろうが、将来の不安に怯えることなくサッカーに専念できているかどうかについては、いささかの疑問を禁じ得ない。また日本代表のキャリアを持つ元Jリーガーであっても、それぞれのセカンドキャリアが決して容易なものでないことを本書は明らかにしている。

 初出を見ると最後の礒貝洋光の章を除いて、すべてDAZNが上陸する17年以前のものである。この年を境にJリーグの風景は一気に激変して今に至っているが、その恩恵はきちんとJ3でプレーする選手にまで行き届いているのだろうか。そんなことを、あらためて考えさせられる一冊である。定価1700円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆★

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