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宇都宮徹壱ウェブマガジン

【無料公開】蹴球本序評『ロシアワールドカップ現地観戦記 日本代表サポーター23人の物語』村上アシシ著

 日本唯一の「プロサポーター」村上アシシさんによるユニークなワールドカップ総括本。Amazonではアシシさんが「著者」となっているが(ご自身もコラムを1本書いている)、実際には編集者としての能力がいかんなく発揮された作品となっている。さっそく「はじめに」の部分から引用しよう。

 ロシア大会は「史上最高のワールドカップ」と称えられ、幕を閉じた。2006 年ドイツ大会から4 大会連続で現地観戦している私も、異論はない。非の打ち所がない大会だった。(中略)この素晴らしい大会の経験をもっと多くの人に知ってもらいたい――。そう思った私は、自身が主宰するFacebook の「ロシアワールドカップ現地観戦コミュニティ」で執筆者を募って、当作品の出版を企画した。

 ワールドカップにおける代表登録メンバーの人数を真似して、各コラムの執筆を担当する人を23人にした。今大会が海外サッカー初観戦だった大学生の初々しい体験談や子連れでのロシア旅、ハンディキャップを乗り越えて車椅子で観戦したワールドカップや、はたまたツイッターで図らずも炎上してしまった秘話など、多種多様なストーリーが集まった。

 いかがであろうか。選手やジャーナリスト以外のさまざまな視点から大会を総括する──。ありそうでなかったアイデアだが、似たような企画自体は過去にもあった。実は私自身も10年の南アフリカ大会直後に、これとかなり近いコンセプトの書籍を某出版社に提案したことがある。結果は、あえなくボツ。理由は「出版した時にはワールドカップ熱が完全に冷めている」というものであった。

 コンセプトはほぼ同じながら本書が成立し得たのは、8年前と比べて電子書籍が格段に普及したこと(本書はKindle版のみの発売)、そしてSNSのコミュニティが発達したことがまず挙げられよう。これにアシシさんの情熱と使命感がブーストとなり、貴重な証言集が大会終了からさほど間を置かずに、われわれサッカーファンの手元に届けられることとなった。

 本書が成立する上で不可欠だったのは、まずはスピード感、そしてマネタイズだったと思う。大会前のインタビューで、アシシさんは「ブラジル以降の4年間は『サッカーでマネタイズする』ということを追求し続けてきていて、その集大成が今回のワールドカップだと思っていますね」と語っている(参照)。ゆえに、プロサポーターとしての4年間の集大成として読んでみると、また違った感慨を覚えることだろう。

 もっとも、今回の企画は「赤字30万円からのスタート」なのだそうだ(参照)。600冊を売って損益分岐点を超えるとのことだが、目標はすぐに達成されることだろう。とりわけ現地観戦したファン・サポーターならば、絶対に買って損はない一冊だ。定価780円(内税)。

【引き続き読みたい度】☆☆☆☆☆

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