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【無料公開】蹴球本序評『強く、しなやかな女性を育てる 学園型地域総合スポーツクラブ 十文字女子サッカーの挑戦』石山隆之著

 昨年の全日本高等学校女子サッカー選手権大会で優勝した、十文字女子高校サッカー部の創設者であり指導者でもある石山隆之さんの著書。構成を担当した北健一郎さんから献本していただいた。さっそく「はじめに」の冒頭部分を抜き出してみよう。

 大きな波も、最初は沖合に吹いた小さな風(ラテン語で「VENTUS」)がさざ波を起こし、その小さな波がまとまることでうねりとなり、はじめて生まれます。

 1996年、「十文字フットボールクラブ」の前身である「十文字中学高等学校サッカー同好会」が誕生するという、小さな風が吹きました。その風は、ボール一つない状態から中学3年生の元バスケットボール部員9人とスタートし、部に昇格し、節々の重要な試合を乗り越えながらうねりとなりました。そして、みなさまからの長年のご支援、ご声援のおかげで、2017年1月8日の第25回全日本高等学校女子サッカー選手権大会(高校選手権)の決勝で1対0で勝ち、初の全国制覇という大きな波になったのです。

 いかがであろうか?「序評」という見地からすると、いささか損をしているように思えてならない。ここだけ読むと「日本一になりました」「それまでにこんな苦労がありました」みたいな、よくある指導者本と勘違いしそうだ。だが実際に読み進めるとわかるが、これは単なる「女子サッカーの強化本」ではない。

 本書は「部員ゼロから20年かけて日本一に」(帯より)というストーリーを縦糸に、「地域スポーツ」「教育」「女性の活躍」を横糸にして、非常に興味深いタペストリーを編み上げている。それぞれのインタビューやデータの見せ方も気が利いていて読みやすい。単に女子サッカーファン向けというだけでなく、教育や経営の現場でも活かせそうな情報がつまっている。

 それだけに、出だしのフックがあまり効果的でないのが気になった。たとえば最近よく問題になっている「ブラック部活問題」とか、政府が推し進めている「女性活躍推進法」とか、女子サッカーにあまり関心がない層でも食いつきそうなテーマはいくらでもあっただろうに、などと思ってしまう。もっとも、この実直な書き出しこそ、20年にわたって弛まぬ努力を続けてきた著者のパーソナリティをよく表しているようにも感じられる。定価1400円+税。

【引き続き読みたい度】☆☆☆★★

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