【無料公開】ボスニア内戦をフットボールを通して描いた野心作!『ノスタルギヤ』脚本・演出:南慎介(Ammo)
いつもは書籍を紹介している当コーナーだが、たまには違ったジャンルもピックアップしてみよう、ということで「番外編」。先日、久々に素晴らしい演劇を鑑賞したのでご紹介したい。タイトルは『ノスタルギヤ』。セルビア・クロアチア語で「ノスタルジア」を意味する。こちらのHPから、導入部分を引用する。
シルクのように滑らかなボールタッチ、一度ボールを持ったら離さない利己的なドリブルは悪魔的でさえあった。イリヤ・ペトロヴィッチ。彼は、ある日突然消えた。
ボスニア・ヘルツェゴビナ内戦の終結から十年後、私はトヨタカップで来日するシーナ・アクシシャヤの取材に車を走らせていた。あの、やせっぽちだった少年が今や代表のエースだというのだから、時間はあまりにも早く、未来は全く予想がつかない。
私は彼と話すべきことがあった。あの日の、イリヤ・ペトロヴィッチと、彼を鼓舞するビリヤシュのサポーターの声と、そして私を含むあらゆる人達の傲慢についてだ。
そこから物語の舞台は、ボスニア・ヘルツェゴビナの架空の街、ビリヤシュへ。1988年、ひとりの日本人フォトグラファーが、地元の3部クラブでプレーするイリヤとシーナという将来性豊かな若きタレントたちと出会う──。そう、この作品は「旧ユーゴスラビアのフットボール」が重要なモティーフとなっているのだ(劇中も「オシム」とか「ズヴェズダ」とか「メホ・コドロ」といった固有名詞が出てくる)。
この作品は、3つの点で野心的である。まず、舞台の限られたスペースでスタジアムの熱気を表現しようとしていること(しかも選手役の役者は2人しかいない)。次に、日本人の役者たちが、ムスリム人やセルビア人やクロアチア人をそれぞれ演じていること。そして、日本人にはなかなか理解が難しいボスニアの民族紛争を、丁寧にわかりやすく表現しようとしていること。いずれも難易度の高いハードルだが、そのいずれをも見事にクリアしていることに、まず感動を覚える。
実はこの『ノスタルギヤ』、私が20年前に上梓したデビュー作『幻のサッカー王国 スタジアムから見た解体国家ユーゴスラヴィア』に着想を得て作られている。さらに言えば、劇中の狂言回しである日本人フォトグラファーのモデルは、実は私・宇都宮徹壱なのである。この役を演じていた谷仲恵輔さんは、恐ろしいくらい私に雰囲気が似た人で、まるで20年前の自分自身を見ているような気分になってしまう(参照)。恥ずかしいやら、懐かしいやら、愛おしいやら(笑)。
いずれにせよ、旧ユーゴのサッカーファンには自信をもってお勧めできる『ノスタルギヤ』。今月12日まで、東京・日暮里のd-倉庫で上演中しているので、お時間がある方は是非ご覧いただきたい。チケットはこちら。