宇都宮徹壱ウェブマガジン

ひたすら執筆し、ひたすら歩いた一日 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』第8回 6月18日(土)@マルセイユ

■日本を想うマルセイユの昼下がり

 フランス滞在8日目。今日は昼食に出た以外は、夕方までずっと執筆に明け暮れていた。何の原稿を書いていたかというと、高知ユナイテッドSCについて。マルセイユにいながら、ひたすら四国リーグのことを書いていたわけである。アパルトマンの窓から降り注ぐプロバンス地方の陽光を、南国土佐のそれに見立てながら取材当時の気持ちを蘇らせていくというのは、決して容易なことではない。積み残しの仕事を海外に持ってくると、たまにこういった苦労を強いられるわけである。

 そういえば今日は土曜日。日本ではJ1リーグのファーストステージがいよいよ大詰めである。東京都知事辞任のニュースは、こっちにいるとあまりピンと来ないが、Jリーグに関してはEUROの現場にいてもやっぱり気になる。今日の結果次第では、首位の川崎フロンターレのファーストステージ優勝が決まるわけだが、こちらではもちろんリアルタイムの映像は見られない。そんなわけで執筆の合間に、スポーツナビのスコア速報とtwitterの情報を交互にチェックしていた。結果はご存じのとおり、川崎がアビスパ福岡に引き分け、2位の鹿島アントラーズがヴィッセル神戸に勝利して1ポイント差で首位に浮上。今節での優勝決定はお預けとなった。当事者の皆さんには申し訳ないが、やはりタイトルの行方は日本できちんと見ておきたい。その意味で、最終節までもつれてくれたことを密かに安堵している。

 昼過ぎ、少し早い昼食を摂るべく、近所のカフェに向かう。アラブ系のファミリーがやっているお店で、アルコールは出さないがサラダがまあまあ美味しいので昨日から重宝している。マルセイユに来て気づいたのは、「マグレブの雰囲気が強い」ということだ。パリでも場所によってはアラブ系のコミュニティを見かけるが、マルセイユのアラブ系は服装からライフスタイルに至るまで、かなり現地の佇まいを色濃く残している。ちょっと風景を切り取ったら、まるでチュニスかカサブランカにいるかのようだ。そういえばジダンの両親も、不退転の想いでアルジェリアからマルセイユに出稼ぎに来ていたことを思い出す。

 カフェには先客がいた。ハンガリーのサポーターたちである。時おりアイスランドのサポーターが通ると「ヘイ! イースランド(アイスランド)!」と声をかけて笑顔で手を振る。この日、両者は18時からマルセイユのスタッド・ベロドロームで対戦することになっていたが、それぞれ敵愾心のようなものは感じられない。アイスランドのサポーターは何事においても初々しく、ハンガリーのサポーターは久々の国際舞台でどう振る舞ってよいのか戸惑っているように見える。欧州予選のような今日のカード、果たしてどんな結末が待ち受けているのだろうか。

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