宇都宮徹壱ウェブマガジン

熱狂から遠く離れて 短期連載『徹壱の仏蘭西日記』第7回 6月17日(金)@リヨン〜マルセイユ

■英国の国民投票とEURO 2016

 フランス滞在7日目。リヨンのアパルトマンをいったん出て、マルセイユに移動する。2日後、再びリヨンに戻って19日にルーマニア対アルバニアをスタジアム観戦。そして翌20日の夜には、そのまま帰国の途につく予定だ。フランスでの日々も、今日を含めてあと4日間。引き続き、充実かつ安全な旅を心掛けたいものだ。列車が出るリヨン・パール・デュー駅に到着すると、昨日の歴史的勝利の余韻に浸っている北アイルランドのサポーターの姿をあちこちで目にした。

 とりあえずサブウェイで朝食を摂っていると、隣の席の若い男がiPadで熱心に何かを読んでいる。さりげなく覗いてみると、英国で労働党所属の女性下院議員が銃と刃物で殺害されたニュースだった。彼女はEU残留派の議員。殺害した男は、「ブリテン・ファースト(英国第一)!」と叫んでいたと報じられており、今月23日のEU残留・離脱を問う国民投票が事件の背景にあると見られている(ただし英国の極右組織『ブリテン・ファースト』は事件への関与を全面否定)。

 国民投票が実施される23日は、ちょうどEURO 2016のグループリーグが終わった直後のタイミングだ。そして奇しくも今大会は、英国4協会のうちスコットランドを除く3チームが出場している。もちろん、大会の結果が投票に影響を及ぼすとは考えにくい。が、もしも英国民がEU離脱を決断した場合、その影響で再びスコットランドに独立の機運が高まり、それがウェールズや北アイルランドにも何らかの影響を及ぼすことは十分に考えられよう。そして万一、連合王国に何らかの分裂が生じたとしたら、EURO 2016は極めて象徴的な大会として英国民に記憶されるはずだ。それこそ、90年のワールドカップ・イタリア大会でのユーゴスラビアのように。

 リヨン・パール・デュー発マルセイユ行きのTGVは定刻より40分遅れて出発。13時すぎにマルセイユ・サン・シャルル駅に到着する。車両から出ると、リヨンよりも3割増しの陽光に軽いめまいを覚えた。駅は街の高台にあり、周囲を見渡すとローマ帝国の植民地時代のものと思われる遺跡があちこちに点在している。この街を訪れるのは、98年のワールドカップ・フランス大会以来だから、実に18年ぶりのこと。あの時は、南アフリカのサポーターの写真を撮るために1日立ち寄っただけだった。今回も観光する時間はあまりなさそうだが、短いマルセイユでの滞在をそれなりに楽しむことにしたい。

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