【無料記事】献本御礼『サッカードイツ流 タテの突破力』中野吉之伴(監修)、清水英斗(構成)
ドイツはフライブルクを拠点に、指導者(UEFAのAライセンスを取得)兼ジャーナリストとして活躍する中野吉之伴さん。そしてドイツでライターとしての活動をスタートさせ、プレーヤー目線での鋭い筆致に定評がある清水英斗さん。共にドイツにゆかりのあるおふたりが、それぞれの強みを活かしながら著したのが本書である。
テーマはずばり「タテの突破力」。その解をドイツの育成メソッドに求めたという意味で、中野さんと清水さんの起用は見事に的中したと言える。わかりやすい図解による練習方法の紹介は、指導する側にとってもされる側にとっても重宝されそうだ。それ以上に、「なぜドイツの育成なのか」「なぜタテにこだわるのか」「なぜ日本の育成現場はパスありきなのか」といった「なぜ」について、きちんと説明されているところに好感が持てた。
中野さんがドイツでコーチ修行をスタートさせた2000年代初頭、ドイツ・サッカー界は深刻な低迷期にあえいでいた。私もユーロ2000でドイツ代表のゲームを2試合観戦したが、見るも無残な弱体化に時代の変化を強く実感した。それから14年後、ドイツはブラジルの地で再び世界一の称号を獲得したわけだが、背景に全国レベルでの育成の抜本改革と現場のたゆまぬ努力があったことは周知のとおり。中野さんは、その最前線で学んでいただけに、言葉のひとつひとつに説得力が感じられる。
2年前のワールドカップでは、ポゼッション重視の「自分たちのサッカー」がまったく通用しなかった日本。しかし、その理由だけで「展開力よりもタテへの推進力」を奨励するのは短慮のそしりを免れない。加えて、ドイツのメソッドを丸ごとコピーする必要もないだろう。ただ、彼らが再び栄光を勝ち取るまでの14年間、育成の現場でどのような変化や試行錯誤があったのかを知ることは、それなりに有益であると考える。同時期、同じ版元から出版された『サッカースペイン流 ヨコの展開力』と、どちらが売れるのも気になるところだ。定価1300円+税。
【オススメ度】☆☆☆★★
「個人的にはもう少し、読みものがほしかったです」