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【無料記事】献本御礼『サッカー通訳戦記』加部究著

 ありそうでなかった、サッカーの通訳にスポットを当てた作品。著者は『サッカーダイジェスト』や『サッカー批評』などでお馴染みの加部究さんである。帯には「オシム、トルシエ、ジーコ…名将・名選手の陰に名通訳あり──」とある。てっきり千田善さんも出てくると思ったら、ジェフ千葉時代のオシムさんの通訳で、現在はブラウブリッツ秋田を率いている間瀬秀一さんだった。もちろんフローラン・ダバディさんや鈴木國弘さんといった、歴代日本代表通訳も登場するが、全体的にはかなり渋い人選である。

 いわゆる「通訳本」と言えば、代表監督が代わるたびに前任監督の通訳がチームの内情を明らかにする「通訳は見た!」的なものがまず思い浮かぶ。しかし、さまざまな通訳のキャリアや人となり、さらには仕事の流儀や人生観といったものを、ひとりの書き手によって著された書籍というものは、意外とこれまでなかった。そうした着眼点の新しさだけでも、十分に手にとってみる価値のある作品だ。

 取材した通訳は10人で、どこから読み始めてみても面白い。私は個人的にも付き合いのある塚田貴志さん(FC東京やセレッソ大阪で指揮を執ったランコ・ポポヴィッチ氏の通訳)から読み始めている。彼がいかにしてベオグラードに渡り、かの地でどんな生活を送り、そして帰国後どのようにしてポポさんの通訳になったのか。これまで断片的に聞いていたストーリーが、ようやく一本につながったことに小さな感動を覚えた。インタビュイーの語気や息づかいの感じられる文体も心地よい。

 実は本書、先にカミさんに読んでもらったのだが「面白くて一気に読めてしまった」とのこと。ライトなサッカーファンにもお勧めできそうだ。ちなみにカミさんが本書で最も驚いたのは「ガンジーさんに小学生のお孫さんがいること」。ガンジーこと白沢敬典さん、実は私よりも若い47歳である。定価1600円+税。

【オススメ度】☆☆☆☆★

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