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【新連載】中村慎太郎の「百年構想の向こう側へ」 vol.1 サポーターはJリーグを滅ぼそうとしているのか?


(C) 中村慎太郎 

今号から新連載がスタートする。書き手は『サポーターをめぐる冒険』でサッカー本大賞2015を受賞した中村慎太郎さん。中村さんには、徹マガが休刊となる6月いっぱいまで、月1で計6回の連載を受け持っていただくことになった。期間限定の変則的な連載にもかかわらず、私からのオファーを快く引き受けてくださった中村さんには、この場を借りて御礼を申し上げたい。

連載のテーマについては、年末に中村さんとブレストする機会を設けたのだが(ちなみにお店はこちら)、テーマはすぐに決まった。彼が今、最も関心を持っている「Jリーグとサポーターとの関係」である(具体的にどういうことなのか、ここではあえて踏み込まない)。「それは面白い!」と私も大いに乗り気になったのだが、問題は連載のタイトルであった。

中村さんはJリーグに対してもサポーターに対しても、ものすごく思い入れがあるだけに、その思いや心情をスパっと言い表すタイトルがなかなか見つからない様子であった。私もいくつかアイデアを出したものの、やはり「これ」という該当作が見当たらず、ギリギリまで粘った末に小見出しで用意していた「百年構想の向こう側へ」を採用することにした。苦肉の策ではあったが、意外とすんなり収まったような気がする。

ということで、徹マガ主筆の前口上はここまで。中村さん、よろしくお願いします!

■まず「サポーター」を定義してみる

徹マガで連載しないかというご提案を頂いたのとほぼ同時に、徹マガが後半年で終了することを知らされた。徹マガの歴史の最後に、書き手として名前を連ねることが出来るのは大変光栄なことであるため、尻尾を大きく振って飛びついたのだが、何を書いたものか。年末年始の間、悩み続けた。

その結果、1つの答えが出た。今、ぼくがどうしても言いたいことを言おう。これはなかなかの炎上物件だと思うし、それもあって腰が重くなっていた部分もあるのだが、この際すべてぶつけてしまうことにした。

テーマは「サポーターはJリーグを滅ぼそうとしているのか」である。

まず話を始める前にサポーターの定義をしておきたいのだが、これがなかなか難しい。広義には、サッカークラブを応援する人を指す言葉で、野球における「ファン」とほぼ同義である。しかし厳密な意味での定義は、サポーター一人一人によって異なっている。毎週ゴール裏へと詰めかけて、大声を出して応援するコアサポーターという人たちがいる。その中でも、ビッグフラッグや横断幕などの手間のかかる応援グッズを管理している人たちはコア中のコアと言えるだろう。

一方で、バックスタンドに着席してのんびり応援している人がいる。その中にはユニフォームを着用している人もいれば、一切グッズを着用していない人もいる。一体どこまでがサポーターなのだろうか。ユニフォームを着ていればサポーターなのだろうか。

あるいはスタジアムで観戦する人がサポーターなのだろうか。ところが、仕事などの都合でスタジアムにはいけないが、応援するクラブの試合経過を、目を血走らせてチェックしている人もいる。こういう人はサポーターと言えないだろうか。

例えばぼくは、ホームの試合の半分くらいはスタジアムに応援に行くし、ほとんどの試合はテレビで観戦している。試合は、ゴール裏で声を出して応援することもあるが、最近は座ってゆっくりと観戦することが多い。ユニフォームかタオルマフラーはほとんどの場合着用している。

ぼくとしては「ゆるいサポーター」くらいの立ち位置なのかなという風に自覚しているのだが、グッズをつけてスタジアムに行って観戦している人のことを世間一般では典型的なサポーターと見なすのではないかと思う。一方で、おまえのようなやつはサポーターとは認めないということをわざわざ言ってくる人もいる。このような一種の混乱は、サポーターという概念の統一的な定義がなく、一人一人が好き勝手にサポーターを定義していることから生じている。そのため、ぼくがサポーターであるかどうかは、ぼくが決めることなので、他人がどう考えようとも別にどうでもいいと思っている。仮にサポーターじゃなかったとしてもやることが変わるわけでもない。サポーターは資格の類いではないのだ。

中には、サポーターではなく、スペイン語で「インチャ」と名乗ってみたり、あるいは敢えてファンと言ったりする人もいる。このように、サポーターという肩書きにはある種のややこしさがつきまとうのである。

この連載の狙いは「サポーター」と「Jリーグ」のあるべき関係を探ることである。もしかしたら終着点は異なるかもしれないが、そのような目論見を持っている。そして、この連載においては、サポーターとはJリーグのクラブを応援する人という最も広い定義を採用しようと思っている。

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