ViSta コラム:喉元過ぎればOB戦。20年目のV・ファーレン長崎OB戦で思い出す、2015年の10周年記念OB戦の記憶。
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」
苦痛や苦労も過ぎてしまえば、それを忘れてしまう。恩人のことを、苦境が過ぎると忘れてしまうという意味である。
余り良い言葉ではない。この言葉の対義語は「羹に懲りて膾を吹く」であるという。熱いものを飲んで火傷をしたのに懲りて、冷たいものも吹いてさますという意味だ。
個人的な感覚だがしっくりとこない。個人的に「喉元過ぎれば熱さを忘れる」の反対とは何かを考えると・・過去のことも恩人も忘れない・・ではないかと思う。それは何か?
そう「OB戦」だ。
読まれた方はかなり強引な結び付け方だと思ったことだろう。確かに強引だ。松澤海斗のドリブル並に一気に切れ込んだ。それでも「「羹」と「膾」って何で読むんだよ?」と言いたくなるような「「羹に懲りて膾を吹く」が対義語ですよ」と言われるよりシックリ来るはずだ。
ちなみに「羹」は「あつもの」、「膾」は「なます」である。というわけでマルコスギリェルメの突破並に強引に関連付けたところで「OB戦」について語ってみたい。
2024年7月6日は20年目のOB戦である。
参加すると発表されたメンバーを見ると中々に懐かしく、興味深い元選手たちが集った。彼らがもう一度、長崎でプレーすることが嬉しく、楽しく、企画したクラブには「ありがとう」と言いたい。
古くからのファンとすれば、OB戦に集まった選手の名前に胸を高鳴らせつつ、「あの選手は?」、「何であの選手がいないの?」と思うこともあるだろうが、OB戦の人選というものは本当に難しいものだし、調整が効かないこともある。なので、ここは「2024年7月時点でクラブが開催するOB戦」として多くの方に楽しんでほしいと思う次第である。これは10年前にV・ファーレン長崎OB戦を企画・人選・交渉・進行した身として切に思うことである。
そのあたりの難しさを少しでも理解してもらえるよう、10年前のOB戦を実施したときの話を書いてみたい。
クラブ創設時からゴール裏にいた私は、2010シーズンでそれらの活動を終了し、存続危機だったクラブからの指名で、外部協力団体の「V・ファーレン長崎支援会」(旧W会(Vを支えるという意味でクラブスタッフが組織した会議名))の運営部長に就き、当時のクラブ社長だった宮田判之さんの依頼で『Team V-ist』というプロジェクトチームの代表として「過去ユニフォーム販売・イヤーブック、マッチデイプログラム制作」などを行なっていた。
これら2つの活動がクラブのJ参入で一段落つき、メディアとなっていた私は2015年頭、当時の服部順一GMに「OB戦やりましょうよ。何でもボランティアで手伝うし、面倒なことは全部責任持ちますから」と持ちかけた。服部GMの返事は「われわれではわからないことも多いので、お任せします。やってください」だった。
私は『Team V-ist』のメンバー用掲示板に「OB戦を開催することが、どの程度本当に実現できるかわからないこと」、「経費として200万を集めること」、「クラブが営業するスポンサーからは寄附を取らないこと」、「われわれは全てボランティアでやること」、「参加OBに旅費を自費負担させないこと」、「今回のOBは引退した選手のみとすること」を書いた。
当時の『Team V-ist』のメンバーは10名弱。「自分は試合の日は応援で忙しいからできません」という人もおり、その中で積極的に協力を表明したのは5人程度。クラブ側も担当スタッフをつけていろんな協力をしてくれたが、実動部隊が5人程度である。そりゃあ、もう大変だった。
人選を進め、寄付先集め、OBに連絡を取って、クラブ担当者に連絡。必要な文章を作り、参加できないOBの所属クラブに連絡を取って交渉と・・、本当に寝られない日が毎日続いた。1週間の睡眠時間合計して13時間程度ということもあった。「椅子に座ったまま寝ると、態勢的にキツいので仮眠から起きやすい」という出版社の編集あるあるを体感したのもこの時期だ。
そんな中で、「応援があるので手伝えない」と言っていた人が、急に手伝いだして現場をかき乱しまくったり、連絡事項を読まずに対応をして後始末に追われたりすることになる。余りの迷惑さに他のメンバーから「奴を辞めさせてください」と迫られ、必死でフォローしていたのに、OB戦当日も、他のメンバーが雨に濡れながら運営をしている間に、控え室でOBと写真を撮って個人のfbに挙げまくり、私は他のメンバーからさらなる不満をぶつけられ、血圧が30ほど上がることになった。
それでも、多くのメンバーがよく手伝ってくれて、30名ほどのOBを集めて開催できたのは実にうれしかった。OBの笑顔で全てが報われた気持ちがした。このとき話題になったタキシードユニフォームは、2014年にスペイン3部リーグの90周年を記念して作られて「クルトゥラル・レオネッサ」というチームがプレシーズンマッチで着用したものと同じデザインである。当時のユニフォームサプライヤーであるヒュンメルがクラブ側と協議して準備したものだった。メモリアル的にとても良かったと思う。
OBチームでスタメン出場したU-18の原田武男監督が交代で下がったら、対戦相手のU-18チームへ移動してU-18のユニフォームを着けて出場してきたり、終盤にアドリブで「もう人数関係なく全員出場させちゃおうか?」と言って、「アウト0、全員イン」で30名弱のOBが全員ピッチへ出て、U-18相手に強引に点を取ったりと本当に好きにやらせてもらった。ベンチにいて、あんなメンバーの交代を指示できることなんてもうないだろう。
以後、OBに会うたびに「次はいつですか?」と言われるほど喜ばれたのも、本当に嬉しいことだった。とは言え、その後も事務処理も含めて本当に大変で、OB戦後に私は熱を出してしまうことになる(笑)。今回、クラブが開催するOB戦もきっとそういう苦労がたくさんあるのだろう。
そんな中で開催されるOB戦だからこそ、全ての関係者、ファンには頭を空っぽにして楽しんでいただきたいのである。そして私は、「またいつかああいうハチャメチャなイベントをどこかでやりたいな・・」と思うのだ。まさに「喉元過ぎれば熱さを忘れる」。OB戦はどんな苦難も苦労も癒やしてくれるのである。きっと、今回のOB戦もそんな思いをさせてくれるに違いない。
reported by 藤原裕久