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【アカデミーレポート】三者三様の天皇杯~安部大晴・古田東也・七牟禮蒼杜。U-18の3人が感じたこと~

<安部大晴>

「楽しかったです!」
6月22日の天皇杯3回戦終了後、後に『左膝内側側副靱帯損傷』と判明する負傷を負い、恐らくは当人もこの時点でしばらくプレーできないとわかっていながらも安部大晴は笑顔で語った。天皇杯という公式戦で、多くの主力を起用してきたJ1のFC東京を相手に120分フル出場し、自身もビューティフルゴールを決めて劇的な勝利に貢献したのだ。充実感いっぱいなのも当然だろう。

今年からプロ契約となった安部だが、「(アカデミーより)トップでの活動を優先させたい(森保洋 V・ファーレン長崎アカデミーヘッドオブコーチング)」という方針とは裏腹に試合出場はU-18が中心だった。理由はシンプルである。トップのゲームに出場できなかったからだ。カイオセザール・鍬先祐弥・加藤大のレギュラー格3人がそろうボランチは、五月田星矢の成長により、昨年よりメンバー入りの難度は上がった。そうなればU-18で試合に出た方が良いというチームの判断は妥当である。だが安部本人はトップの公式戦でプレーしたい気持ちが強かったことだろう。そんな中での天皇杯3回戦である。代償となった負傷は痛いものの、U-18では簡単に得られない経験と成功体験を得たことは、本人にとって余りある。

安部の復帰は8月後半の予定で、リハビリなどを考えれば完全復帰は9月中旬となるだろう。10月で終了する今季のスケジュールを思えば、あまりに長い離脱である。ならば、この長いリハビリ期間に天皇杯で得た成功体験を振り返り、そして考えて、自身の糧としていってもらいたい。現在、U-18でプレーする高校3年生の中で、来季にトップでプレーする方針なのは安部のみである。U-12の頃から「未来のバンディエラ」と呼ばれた安部が、アカデミーでプレーできるラストイヤーを1分たりとも無駄にしないために、そう願わずにはいられない。

<古田東也>

U-18では高2のときからレギュラーの一角としてプレーする古田東也は、天皇杯でプロのレベルを体感した。

「(FC東京の)森重(真人)選手がボールを持ったときに、蹴り方を見て逆サイドにボールを出すと思ったら、森重選手はこちらの動きを見て判断を変えてきたんですよ。これがトップレベルの選手なんだって思いましたね(天皇杯 FC東京戦後)」

「自分はやっぱジャンプ力がなくて、(アビスパ福岡の)フアンマ(デルガド)選手に普通に胸トラップされたりした。ジャンプ力や、自分でボールを持ち運んでビルドアップできるようにならなければと思いました(天皇杯 アビスパ福岡戦後)」

天皇杯3回戦、ラウンド16ではJ1との対戦が続き、どうしても守備に回る時間が多かった。古田が普段プレーするプリンスリーグU-18で、V・ファーレン長崎U-18がそういう試合展開に追い込まれることは少ない。だが、天皇杯の2試合・・特にFC東京戦で3点目を奪ってから試合終了までに経験した残り15分間は、古田にとって未知の領域だったに違いない。フアンマの強さもアカデミーでは決して経験できないレベルだったはずだ。180cmの古田が胸トラップでボールを取れることなんてU-18レベルではないのだから。

「トップの試合に2試合出場した経験や得たものを表現してU-18に伝えなければ・・、もっと上のレベルにいかなければと思いました。そこは自分の責任だと思います。練習でもっと良い雰囲気を作って、練習の質も高めていきたいと思います」

天皇杯を終えた古田はそう語った。彼にとって天皇杯はプロと現在の自分の間にある距離を測る機会となったようだった。自信も得たろう。自身の現在地もわかっただろう。トッププロとの違いも把握できただろう。何をやるべきかも見えてきただろう。U-18での現在地から次へ。古田がここからどんなDFに成長していくか実に楽しみである。

<七牟禮蒼杜>

前述の2人より悔しさがあったのは七牟禮蒼杜だろう。
ボールをもらってから勝負するFWというポジションである以上は仕方のないことだが、安部・古田に比べて彼がボールにかかわるプレーは少なかった。出場時間も最も短く、投入されるのはいずれも受けに回る時間が多かった展開の中だ。一試合あたりのボールに関わった回数は数えるほどだったはずである。安部のように存分にプレーすることも、古田のようにトッププロとマッチアップして濃厚な経験を得るのも難しい。試合の中でチャンスが来るのは数えるほどというFWのポジションそのままに、ボールにさわれない時間がメインだった。

その中でFWとして教科書となったのがクリスティアーノである。FC東京戦で決定機を得ながら決めきれなかった七牟禮に対し、クリスはワンチャンスを逃さずに決勝点を奪って見せた。

「決定機を決めなければプロの競争では生き残れないと実感しました。今日のゲームで自分は決定機が1度あったのに決めきれなかったんですが、クリスはワンチャンスを逃さなかった(天皇杯 FC東京戦後)」

天皇杯ラウンド16のアビスパ福岡戦では終了間際にわずか5分の出場にとどまった。手応えより、もどかしさや悔しさが大きかったことだろう。特にいつもと違うインサイドのポジションでの起用だったのでなおさらだ。その中で七牟禮は「短時間でも得点に決める力や、結果を残す力がまだ足りない」と感じたという。

FWとはどんなに時間が少なくとも、どんなにボールに関われなくとも、チャンスが来れば決めることを求められる理不尽なポジションである。天皇杯で感じた悔しさと、理不尽をはね返すクリスのプレーを目の当たりにした経験が、彼のFWとしてのキャリアの中で生きていくことを期待したい。1年時からU-18の主力としてプレーする七牟禮にとって最終学年を迎える来季を、絶対的なエースストライカーとして君臨すべき年とするために、それは必須なのだから。

reported by 藤原裕久

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