長崎サッカーマガジン「ViSta」

チームレポート~(前編)長崎、監督交代。誤算の続いた2022松田長崎の戦い~

6月11日、長崎はアウェイのFC琉球戦で、アディショナルタイムに米田隼也が劇的な決勝ゴールを決めて勝利した。これでリーグ21試合を終えて9勝4分け8敗。前半戦終了時点で暫定5位という成績で折り返すことになった。

翌12日、クラブは松田監督に代わり、ファビオカリーレ監督が新監督に就任すること、カリーレ監督が来日して登録が完了する7月までの公式戦は、原田武男U-18監督が務めることを発表した。リーグ折り返しが、ちょうど松田監督最後の采配となったわけである。

思い返せば、昨年5月に急きょ監督に就任した松田浩監督の初ベンチ入りした試合でも、米田隼也がアディショナルタイムにゴールを決めて勝利している。「チームに力を与えてくれる非常に貴重な選手(松田監督)」という米田のゴールで松田監督の戦いは始まり、その米田のゴールが最後のゴールになったのは不思議な感じだ。

「誤算」
就任以来、松田監督の戦いを一言で表すならば、この言葉が最も適切だろう。

J2では圧倒的に高い戦力を擁し、優勝の大本命と見られながら守備が破綻し苦境に立たされた昨シーズン序盤。チーム再建を託されて緊急での登板となった松田監督は、短期間で守備を再生させ、若手を抜擢しながら、見事にチームを立て直した。だが「ゾーンディフェンス」という理論、「ディシプリン」という哲学で知られる松田監督にとって、それは理論どおり、セオリー通りにやっただけであって、いわば目標達成に必要な方法をやって、狙いどおりに目標へ近づいただけだった。だが周囲にとっては、ここまで理論やセオリー通りにいくことは予想以上であり、まさに嬉しい誤算だったのである。

昨季、就任して見事にチームを立て直した松田監督の手腕は高く評価された

そうして見事にチームを再建させた指揮官が続投を勝ち取るのもセオリーだ。新シーズンへ向けてチームは、流出した主力の穴を埋めつつ、攻撃のテコ入れにクリスティアーノという超級のタレントも獲得した。守備の構築に対して、攻撃の整備が得意とは言えない松田監督にとって、クリスティアーノは攻撃戦術そのものであり、堅守に攻撃戦術(クリスティアーノ)を加えるという構想は理に叶っていた。前年に途中加入したウェリントンハットが、守備を免除されながらも毎熊晟矢(現 セレッソ大阪)のカバーで守備力を維持しつつ攻撃力を引き出せたことで、より能力の高いクリスティアーノならもっとやれるという読みもあったろう。(流出した戦力を)補い、(攻撃を)強化する。これもまた補強のセオリー通りだった。

「戦術理解などは選手の間ではもう当たり前になってきているかなと。それが沖縄キャンプでのトレーニングマッチでも結果になっていたんだと思います。手応えを感じていますし、進む道が間違っていないと確信を持ってます」

「(チーム作りの)『守・破・離』でいうと、『破』くらいから進んでいる」

「去年からの土台がある程度できていたので、計画的に進められて、あまりやり残したことはないと思っています」

開幕前の監督の言葉を裏付けるように、キャンプでの長崎は好調ぶりを発揮。リーグ戦への期待は否が応でも高まった。だが開幕しての6試合を終えて1勝1分4敗。第6節終了時点で20位と低迷し、3月の最高順位も14位と苦戦が続いた。

開幕前のキャンプでは手応えを感じていたが・・

苦戦した大きな理由は選手の故障と、そこを引き金として露呈した選手編成の問題だ。開幕前の故障で澤田崇や米田隼也が序盤を欠場した結果、サイドの人材が大きく不足。特に守備のカバーをしつつ攻撃でも主力の一人であった毎熊の穴は予想以上に大きかった。そんな中で右サイドのクリスティアーノが守備をある程度免除されていたため、チームの戦術完成度は昨年より低下していたのだ。

第6節終了後、松田監督は当時のチーム状態をこう語っている。

「去年の終盤に「破」の段階になったので、そこから積み上げて「離」の段階になるという理想を持っていたんですが、やっぱり選手が変わった影響があったのかなと。(中略)戻るべき「守」がない状態の中途半端な「破」の状態になっていた。それで試合でもベースの部分が断片的には出ても、地に足をつけて戦えてはいなかった。そこは僕のマネジメントの失敗だったと思います。自由と規律というバランスでいうと自由の方だけが高まっていて、選手の力を尊重し過ぎていたのかなと。それだと何の力にもならないと感じました。去年の終盤の段階よりだいぶ後退した形で、共通理解は少ないと思っています。キャンプでも大きな問題が出なかったので、そこはやり過ごしてしまいました」

新チームの状態を読み違えた『誤算』を踏まえ、チームは堅守速攻への回帰を決断する。クリスティアーノにも守備を求めチームの安定化を進めた結果、第7節の群馬戦は3対2の辛勝で、続く徳島戦では0対0のドローだったが、第9節の町田戦、第10節の秋田戦を1対0で連勝。前任の吉田孝行監督が昨年に解任されたときの成績が11戦で4勝2分け5敗、勝点14の11位。対して松田監督は10節終了時点で4勝2分け4敗で勝点14を獲得し、最低限のノルマは果たすことに成功した。

4月に一度立て直したチーム。反転攻勢への期待を集めた

「僕ら選手の中でも、コーチングスタッフの中でも(J2第7節)の群馬戦前半が本当にターニングポイントになった。チームとしてやりたいことが出せて、そこで良い意味での基準ができた。あとはそこを継続してチームに浸透させて、出していくだけ」

奥井諒がそう語ったとおり、4月にチームは一時期の状態から脱することに成功する。だが5月に入ると攻守のバランスで守備の比重を高めた反動で、攻撃力が低下した。その結果、再び勝ったり負けたりを繰り返すようになってしまう。連戦が始まったことや、選手の故障の問題という『誤算』もあって、選手編成バランスが悪さを再び露呈するという不運も重なった。

得点力不足でも勝ちきるためにより守備強度を高めるか、攻撃力を高めて守備力を補うか。チームは守備の徹底を優先し、時間がかかっても試合を重ねて攻撃を積み上げようとした。だがそれは、攻撃やゲームの支配を強く志向するクリスティアーノやカイオといった戦術級の力を持つ選手の個と、チーム戦術とのミスマッチと言う『誤算』の呼び水にもなった。

チーム戦術を徹底させることで、戦術級の個を持つ選手とのバランスが難しくなった

「今は正直、外国籍の(個の)方が戦術より強く出ているのかなと思います。だから戦術や立ち位置をしっかりできるようになった上で彼らの力を出せればと思います」とは、第16節終了時の米田隼也の言葉である。

「今日の前半のサッカーが一番やりたいサッカーなので、外国籍選手にも合わせてもらいたいと思うんですけど、彼らには強力な武器や個性があるので、そこの良さを消さないようにという難しさもあると思います」とは、同じ試合での村松航太の言葉だ。

こういった問題に対して、強化も手をこまねいていたわけではない。今季の第2次登録ウインドーは7月15日からで、登録初日に補強をしても最大でリーグ16試合しか出場できない。今年1月に強化部長としてクラブに復帰した竹村栄哉部長にとっては、今年打てる手や時間は限られている。その中でも就任時に感じた最終ラインの高さと層不足解消のため早くからCB補強を構想。、当初はJ1で出場機会の得られない選手の補強でカバーしようとしていたようであるが、ワールドカップイヤーと過密日程という事情を考慮し、日本人選手の獲得にこだわらずブラジルからカイケを獲得して対応している。さらに来季以降も見据えながら攻撃の補強にも動いていたようである。

(後編へ続く)

reported by 藤原裕久

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