長崎サッカーマガジン「ViSta」

竹村栄哉テクニカルダイレクター インタビュー 後編:強化という仕事「このクラブは自分にとっての一部。再びJ1に昇格させなければという中で、自分が関わることができるのをうれしく思います」

2007年にV・ファーレン長崎に選手として加入し、現在はチーム強化を担当する竹村栄哉テクニカルダイレクター(以下:竹村TD)に話をうかがうインタビューシリーズ。

前編:V・ファーレンの成長と変化。そして強化。

中編:強化が感じるJ1とJ2の差、リーグの強化傾向。

前編・中編に続き、最終回となる3回目は、竹村TDに強化という仕事や立場について話してもらった。あまり表に出ない強化担当者の仕事ぶりが少しでも伝われば幸いである。

■J1のベガルタ仙台にいて、4年ぶりに長崎の街に帰ってきましたが、諫早駅や長崎駅リニューアルして街全体も変わってきています。ご覧になりましたか?

本当に変わってきていますね。長崎駅を見に行ったんですけど、前とは全然違っていました(笑)。諫早もそうですよね。今の長崎県は「100年に一度の変革のとき」ということみたいですが、クラブにとっても長崎スタジアムシティプロジェクトがありますし、街全体が変わろうとしている時期なんでしょうね。何か新しい歴史がこれから始まるんだろうなという感じがしています。

スタジアム、練習場など常に現場に立ち会ってきた。画像は2015シーズン(左:現モンテディオ山形の丹治祥庸GM。右:竹村栄哉TD)

■竹村TDはV・ファーレン長崎がJリーグに参入して以来、ずっと強化を担当していますが、強化担当としてどんなときに最もやりがいを感じますか。

やっぱり試合で勝った時ですね(笑)。獲得した選手が活躍してくれるのも嬉しいんですが、獲得した選手が全て成功するわけではないですから。もちろん強化担当としての経験や能力、それからデータをフルに活用して、獲得した選手が成功する確率を高めていくんですが、それでも100%成功するということはない。だから活躍できない選手に対してもしっかりとフォローすべきですし、活躍が一番というわけではないです。

それでもやっぱり試合に勝つとうれしい。試合内容も大事ですが、特に長崎はJ1に昇格するために勝たなければならないので。逆に負けると悔しいですよね。僕も現役時代は負けるのが本当に嫌いで、負けたら悔しくて眠れないこともありましたから。今は立場上、その気持ちを出さないようにしているんですが、選手もみんなそうなんです。

(広報:竹村さん、けっこう気持ち、出ちゃってますよ(笑))

えっ、出てるか?!(笑)。まぁ、でも今はテクニカルダイレクターとして選手をマネジメントする側で、最終的には勝利するためにやっているんですから、みんなに勝つ喜びを味わってほしい。そういう意味で、やりがいも目的も勝つことが一番だと思っています。

自身、プロとして、アマチュアとして22年現役でプレー。けがにも苦しんだだけに選手へのフォローも考えるという

■強化担当としては勝つためには選手を入れ替えることもありますし、選手の方から離れることもあります。その辺は気持ち的にすぐ折り合えたりしますか?

必要なら新しい選手も獲得しなければなりませんし、選手が移籍するときは複雑な気持ちにもなりますが、この世界ではそれが当たり前のことなので割り切らなきゃでしょうね。それでも獲得した選手たちには自分が支えるクラブに残ってほしいし、このクラブで活躍してほしいと思っています。それはどの選手に対してもそうです。でもクラブに魅力がなかったり、あってもそれが伝わったりしていないと、選手はこのクラブに残りたいと思ってくれないんです。だからそこについては普段から知ってもらえる、そう思ってもらえることを心がけています。もちろんクラブがJ2のときにはJ1に行きたいという選手がいますし、僕も現役の頃は同じように考えていたので気持ちはわかります。そのとき選手に、このクラブは素晴らしいんだ、良いクラブだと言えることが大事なんだと思います。だからクラブの一人として、どんな立場であっても良いクラブにしていくことが、選手がいたい、残りたいと思うクラブになることにつながるんだと思います。

現役引退後にフロント入りしただけに、クラブへの思い入れは強い

■強化担当というと常に活動している印象があるんですが、スケジュール的にはどうなっているんですか。

現役を引退して強化になるときに、強化は試合が終わったら、次の日は休みだよって言われたんですよ(笑)。だまされましたね、実際にやったら全然違いました(笑)。シーズンが終わったときには、来季のチームをある程度作ってなければいけないので、シーズンを通して情報を集めたり、動き回ったり、いろんなところと細かく連絡を取ったり・・。オフシーズンもずっとそんな感じです。チームの編成が終わっても、選手をどう生かすか、次の補強はどうするかを考えなきゃいけない。だから休日はあっても、頭の中はチームや強化のことでいっぱいですね。年中無休みたいな感じですよ(笑)。

■人間関係がものすごく重要な役職のようですね。

それはもう間違いないですね。選手・監督・スタッフはもちろんですが、選手には基本的にエージェントがついていますから、彼らとも信頼関係を築いていないと良い選手も来てくれません。どうしても人とのつながりは大きくなるし、その影響は大きい。僕が現役の頃はまだ、エージェントも一般的ではなかったので、監督と選手がいればチームはできるし、あとは勝つか負けるか勝負するだけだと思っていたんですけど(笑)、今ではどのクラブでも強化部やGMがエージェントとの関係性をうまく作れないと、チームがうまく回らないですね。そこは自分も強化を担当して、実際に何度も感じました。本当に人間関係が大事だなと思います。

■査定とか分析以外にも人間関係も大事となると、サッカーのことも全部忘れるような日がますます減りませんか?

そういう時間が欲しいなと思うこともあるんですけど、休みになっても結局は試合を見たりして、サッカーのことを考えることが多いですね。逆にそういう環境にいられるのが幸せだと思ったりします(笑)。たまに「趣味とかあるんですか?」って聞かれるんですけど、「趣味に打ち込むほどの時間はないよ」って(笑)。趣味って言うと不適切かもしれないんですけど、サッカーについて考えることが趣味みたいな感じになっていますよね。

選手・スタッフとしてクラブに関わって13年目。V・ファーレンには特別な思い入れがあるという

■竹村TDは選手・スタッフとして、今年で合計13年、V・ファーレン長崎に所属しています。竹村TDにとってV・ファーレンとはどんな存在のクラブですか?

自分のサッカー人生の中で、選手時代から強化やスカウトまで含めて一番長く関わっているクラブですしね。だから今回、復帰できて本当に嬉しいです。2018シーズンを最後に、一度クラブを離れはしたんですけど、長崎のことはずっと自分の中にあって、それがそのまま質問への答えになると思います。

V・ファーレン長崎は格別な思いがあるクラブ。そういうクラブを再びJ1に昇格させなければという中で、自分が関わることができるのを嬉しく思います。何というか、このクラブは自分にとっての一部なんですよね。だから「長崎のためならば」という気持ちはいつも持っています。うまく表現できないんですけど、ここはそういう特別な感覚があるクラブです。

reported by 藤原裕久

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