中野吉之伴フッスバルラボ

【きち日記】ユーロ編②巧みなオーストリアと王道のベルギー。チームスタイルごとの試合の主導権の握り方

▼ ラングニックの修正力

オーストリアとポーランドの一戦を現地取材することができた。

どちらも初戦を落としており、負けると他会場の結果次第でグループリーグ敗退が決まる。それだけにこの試合にかける意気込みはどちらもマックスで、序盤から激しい競り合いが続く。

ファーストアタックはオーストリア。キックオフからの戦術はとても増えてきている。今回はボールをセットした選手が後ろにチョンとけるとすぐに猛ダッシュ。サークル外から素早くボールを拾った選手がドリブルで持ち運んで揺さぶりをかけるというもの。面白いアイディアだ。

ポーランドは国民的英雄ロベルト・レバンドフスキがベンチスタート。温存策が吉と出るか凶と出るか。ポーランド守備は前からの攻撃には強いが、揺さぶりに弱い。オーストリアはそこを突く形で序盤からチャンスを作り出す。

《押してダメならさらに押し込んでいけ》がRBスタイルの真骨頂。矢印のベクトルは常に前へと向けられ続けている。プレスに行くときもそうだ。相手の前で止まらない。そこからグッと飛び込む。ボールごと体を押しこみ、それに連動して2の矢3の矢が放たれる。

コーチングゾーンからはラルフ・ラングニック監督が冷静に手をたたきながら戦況を見守り続ける。

オーストリア代表で興味深いのはボランチにフロリアン・グリリッチを起用しているところだろう。プレスメーカータイプではなく、それまでレギュラーだったザヴェル・シュラーガーとコンラード・ライナーコンビのようにダイナミック連続プレスができるわけではない。

ただ、ゲームインテリジェンスに優れたグリリッチが入ることで攻撃にバリエーションとスピードの変化が生まれるメリットが考えられる。ライマーを一列前のトップ下に置いたのは、司令塔としてではなく、相手守備へのプレスとセカンドボール回収、2列目からの飛び出しが期待されてだろう。

運動量と守備力が特徴のニコラス・サイヴァルトがフィルターとして走り回り、グリリッチは変化を担当。加えて、前係になるプレスで生まれるスペースをカバーできれば最高だ。

所属クラブのホッフェンハイムでは3バックセンターでプレーしているから適正は間違いなくある。22分、グリリッチからバウムガルトナーへ見事な浮き球パスを通した場面には、ラングニックの確かな狙いがみられた。

ただその後、守備時のポジショニングが中途半端になってしまう。ラングニックもたびたびコーチングゾーンに飛び出して指示を飛ばすが、4バック前のスペースが広大なまま。失点シーンもそうだった。右からのクロスの段階で4バック前のスペースを埋める選手がいない。こぼれ球を2度拾われてゴールを決められた。

互いに特徴を出せないで、プレスに行けないで、オープンな立ち位置に立っているだけだとオーストリアらしさは何も見られない。

案の定ラングニックはハーフタイムに動いた。グリリッチを下げてライマーをボランチに、パトリック・ヴィマーを右サイドに起用。右サイドにいたクリストフ・バウムガルトナーはトップ下に。ライマーとザイフェルトでセカンドボールを回収し、中盤のスペースを埋められるようになったことで、不安定さはだいぶ整理された。

56分にレバンドフスキが途中出場して盛り上がりを見せようとするポーランドに対して、オーストリアは見事な攻撃から勝ちこし。途中出場左SBアレクサンダー・プラスのグラウンダーのパスをFWマルコ・アルナウトビッチが巧みにスルー。逆を取られたCBが残したスペースに素晴らしいワンタッチコントロールでボールを運んだバウムガルトナーが見事にゴール右隅へとシュートを沈めた。

当たり前だけど修正力って大事だ。縦への推進力が高まったオーストリアをポーランドは抑えられない。

終盤は完全にオーストリアがゲームをコントロール。点を取らなければならないポーランドの事情はだれもが理解できるところだが、ボールロスト後の対応がないままでは、どんどん追い込まれてしまう。結局終盤に1点を加点したオーストリアが文句なしの試合展開で貴重な勝ち点3を手にした。

試合終了と同時に見せたラングニックのでっかいガッツポーズがとても印象に残っている。

(残り 1043文字/全文: 4379文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2 3
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ