【きちルポ】クリスティアン・シュトライヒ③《盛者必衰》を食い止めるために。シュトライヒが大事にし続けた信念とは?
▼ 必衰への備えと覚悟
《盛者必衰》ということばがある。
どれだけいま栄えていても、必ず衰える時がくるという意。短期的に見たらずっと成功しているようなところも長い歴史の中で見たら、似たような末路をたどる例が驚くほど多い。栄えるところまでたどり着いても、栄え続けるというのは極めて難しいのは正に世の理だ。
日本だけではなく、世界中どこででも当てはまる。ドイツでもそうだ。サッカー界でもそうだ。11連覇中だったバイエルンが今季優勝を逃したことだってその一つだろうし、かつてはCL常連だったハンブルガーSV、ヘルタ、シャルケといった伝統クラブが2部で苦しんでいるのは最たる例。
そんななか今季限りでクラブを離れたクロスティアン・シュトライヒ監督は、今季開幕前に何度も警鐘を鳴らしていた。
ここ数年間、フライブルクは右肩上がりに成長を遂げている。ドイツカップ決勝進出2年連続ヨーロッパリーグ出場権獲得。ヨーロッパリーググループリーグ突破。ユベントスやレンス、ウェストハムというヨーロッパの強豪クラブと戦うところまできた。
「だからこそだ。気をつけなければならない」と、シュトライヒは真剣な表情で話をしていた。
シュトライヒ「我々にはこれまで難しい時期がたくさんあった。残留争いを乗り越え、でも降格したこともある。この10年間、本当にいろいろあった。苦しい時期でも大事な人材がこのクラブには残っていった。それが大事だった。自分達の我慢強い取り組みがクラブの成長へと導いた。だが、いつまでも右肩上がりに成長し続けるなんてことはない。そのことは私はよくわかっている。だからこそ、いまこうしていい調子で進んでいるいまを味わいたいし、喜びたい。自分達で自分達にプレッシャーをかけすぎないように気をつけないと。自分達は自分達らしくあり続けるべきなのだ。それが私の課題だ。難しい時期でも自分の回りにいる人材と正しく向き合い続けることだ」
とても大切な言葉だ。シュトライヒが言うように正しい人材が正しいポストにいるから選手も指導者もスタッフも集まっていくし、すぐに移籍を考えない。事実本当に多くの選手が長い時期をフライブルクで過ごしている。
シュトライヒ「この数年間でフライブルクは選手層が一回り以上もよくなった。クリスティアン・ギュンター、ニコラス・へーフラーという選手がさらに経験を積んで成熟した。クオリティ、経験が備わってきた。そしてクラブのスタッフも含めた人間性がある。ここで時間をかけてみんなで成長している。今自分達は絶頂期にいるのかもしれない。でも、これからも自分達は様々なことをうまく補い合いながら、このハイクオリティを保ち続けていきたい。4-5年前と今とを比べたら、全く別の戦力だよ。それは新加入選手のおかげだけではなく、ずっとここでプレーしている選手の成長もすばらしいからなんだ」
シュトライヒはことあるごとにそうした昔からいる選手へ敬意ある言葉を残している。例えばマヌエル・グルデ。本来フライブルクではドイツ代表CBマティアス・ギンター、オーストリア代表CBフィリップ・リーンハルトがレギュラーCBだ。第3CBには成長著しいフランス人CBキリアン・シラデッラがいる。グルデはその次の第4CBにいる選手。ギンターとリーンハルトが元気だった昨シーズンはほとんど出場機会がなかった。
シュトライヒが言う。
「グルデは素晴らしい心構えを持った選手なんだ。正直でオープンで、どんな練習でも100%の力で取り組んでくれる。出場させられずに苦しい思いにいる私に、『監督、大丈夫だよ。試合に出れなくても、僕はいつでも100%の力で取り組むから』と言ってくれるんだ。彼のような選手がいるから、チームは強くなる。若手は彼らのような選手から大事なことをどんどん学んでいく。それにプレーだってすばらしいんだ。守備での力はもちろんだし、彼のヘディング能力はとても高く、セットプレーではいつでも危険な存在になれる」
主力CBが欠場し、繰り上げ出場のグルデが好プレーをするといつも嬉しそうに話していた。
「グルデがよかっただろう。グルデはいい選手なんだよ」
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