中野吉之伴フッスバルラボ

【ゆきラボ】オランダの本気の自転車政策と、ドイツの自転車社会の伸びしろを見た。ブックレビュー『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』

こんにちは!ドイツの日常コラム「ゆきラボ」です。

暖かくなり、自転車での外出が気持ち良い季節になりました。今回のゆきラボは、1冊の本をご紹介するとともに、自転車に乗った目線から見えてくる人と社会の関わり、特に子どもと社会の関わりについて考えてみたいと思います。

昨年11月に発売されたこちらの本『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』。著者の1人である、小畑和香子さんと以前から交流があったことから手に取った本です。私の普段の移動が自転車メインであること、また昨年家族旅行で訪れたオランダの自転車文化がとても興味深く、魅力的に映ったことから、ぜひゆっくり読んでみたいと思っていた1冊でした。実は2021年に小畑さんと久々に再会した際に、ゆきラボ記事でも少しだけそのことに触れています。

自転車に乗るのが好きな方、自転車に日常的に乗る方、自転車も好きなんだけど結局車になっちゃうんだよね…という方。そして、私のように、旅先で出会った自転車文化に魅了されて「こんなふうに自転車で移動できたらいいなあ」と憧れている人に、ぜひ手に取ってもらいたい1冊です。

小畑さんが担当したのはパリとドイツの章なので、私も自分の生活空間であるドイツ(6章)から読み始めたのですが、

ひとりの住民として最初に断っておくが、ドイツは自転車先進国ではない

というきっぱりとした一文から始まることに、まず前提をひっくり返された気分になります。

え?ドイツって自転車先進国だと思って暮らしてたんですけど?

周囲にびっしり駐輪場を作ったSCフライブルクのホーム、ヨーロッパパークスタジアム。ドイツ中どこを見てもこんなスタジアムはない

確かにドイツには人口とほぼ同数の自転車が存在します。以前ここでご紹介した通り、個人が自転車本体と自転車グッズにかける費用(ヘルメット、サイクルウェア、バッグ、追加オプションパーツやメンテナンス費用など)の合計は堂々の世界一位。世界最大の自転車利用者団体ADFC(全ドイツ自転車クラブ)を擁する国でもあります。周囲を見回してみれば、整備された自転車レーンも大きな駐輪場も手軽に使えるレンタサイクルもあるじゃない……と思っていたのですが、ドイツ全体で見ると、どうもそれは当たり前の光景ではないようです。

自動車産業はなんといってもドイツの基幹産業。交通といえばまず車、という優先順位を変えるのは、消費者一人一人にとっても、政府にとっても、簡単なことではありません。確かに、ドイツの多くの都市では、歴史的建造物の残る観光エリアや商業地区への車の侵入を制限し、歩行者と公共交通機関優先の都市計画を採用しています。が、規制エリアを一歩出れば、そこでは依然として車を優先させた交通網が広がっています。ADFCによれば、自転車ユーザーの多くは「安全の面で不安がある」と感じており、自転車で充分移動できる短距離であっても、多くの人が車移動を選びがちな現実の行動に繋がっています。

フライブルク市の広報紙より、自転車レーンの拡張計画。上下段ともに、左が現在、右が拡張後の予定図。車道をがっつり1車線分減らして自転車道にしている

確かに、ここフライブルクでも、交通量の多い幹線道路沿いでは自転車専用レーンが整備されていますが、古い街並みや小さな通りが交錯する住宅地などでは未整備のところも多いです。本来は、生活空間に密着した住宅地にこそ、安心して移動できる交通空間が欠かせないはずなのに、そうはなっていません。フライブルクの幼稚園や保育園、学校の多くでは、徒歩か自転車、または公共交通機関で移動することを呼びかけ、自家用車での送迎を禁止していますが、浸透しているとは言えないのが現状です。安全が確保できないから、遅刻しそうだから、雨が降っているから、通勤途中に車で送っていけると楽だから……様々な理由で、登下校の時間帯には園や学校の周辺をたくさんの車が行き交います。交通量が多いと、ますます園や学校近辺の交通空間の安全性が下がる、という悪循環を招いてしまっています。

昨秋、新学期が始まってすぐの地元紙。車での送迎がなくならず、子どもの交通安全が確保できない現実を伝える

気候変動対策という観点から見ても、1990年から2018年までのドイツの温室効果ガス排出量のうち、農業や工業、エネルギー産業では着実に排出量が減っているのに対し、交通部門ではほぼプラスマイナスゼロという残念すぎる結果が出ています。30年近くかかって1%も減らせていないというのは衝撃的な数字です。

自転車大国ではあるかもしれないが、自転車先進国ではないドイツの現実。後半は、それと比較して、子どもと自転車と社会をつなぐオランダの取り組みを紹介します。

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