中野吉之伴フッスバルラボ

【ゆきラボ】自分の常識と他人の常識が違ったらどうする?ドイツの学校で子どもが受けたソーシャルトレーニング

こんにちは!ドイツの日常コラム、ゆきラボです。

最近、母親の前では口数の少なくなってきた長男ですが、先日の夕食のときに急にこんなことを言い出しました。

「自分が『それくらい知ってて当然、常識』って思ってることと、他人の常識って、けっこう幅も中身も違う」

おお。15歳でそこに気づけたのはとても大切なことです。物事に対する視野や感じ方は人それぞれですが、言葉や理屈で教えようと思って教えられることではないと思うので、自分でそこに気づいてくれたのはとても嬉しいです。

イメージ https://www.photo-ac.com/

で、長男は何をきっかけにそんなことを言い出したのかというと、クラスに第二次世界大戦がいつ始まったのか覚えてない子がいたとのこと。いくら世界史が苦手でも、それくらいは最低限覚えてないとダメでしょう、という話になったのだそうです。1939年9月1日が正解です。これ、年号だけでなく日付までぴっちり覚えているのが、長男言うところの「常識」です。ちなみにドイツが無条件降伏に調印して、ヨーロッパでの戦争が終結したのはベルリン時間の1945年5月8日深夜。モスクワ時間では日付が変わって5月9日になっていたため、ロシアでは9日が戦勝記念日になっています。

イメージ https://www.photo-ac.com/ G7サミットの開催地としても話題の広島

自分はどうだろう……と振り返ってみます。1945年8月6日、9日、そして15日は日本の多くの方の頭に入っている日付だと思いますが、満州事変は年号は覚えていても、私は日付まで覚えていないです。真珠湾攻撃、太平洋戦争開戦の1941年12月7日は覚えていますが、日中戦争の始まりとなった盧溝橋事件の日(1937年7月7日)も覚えていません。ゆきラボ読者のみなさんはいかがでしょうか。

原爆投下の日や終戦記念日はニュースで特集が組まれますし、12月7日にもアメリカでの追悼式典が報じられますが、満州事変や盧溝橋事件の日って、そういえば特にメディアで取り上げられる日でもないような気がします。もちろんこれらは全て私の頭の中での「常識」であり感覚なので、日本にお住まいでも違う「常識」を持っておられる方もいるでしょうし、中国や韓国、台湾の方にとっては言わずもがなでしょう。

イメージ https://www.photo-ac.com/

人がコミュニケーションを取るときに、お互いが共有している基本的知識や価値観がどこからどこまでなのか確認しておくって大事なことだよな、というのは、ドイツで過ごす中で身に沁みついてきた感覚の1つです。私の思っている「常識」とか「普通」は、相手の思っているそれと重なる部分もあるかもしれないし、全然違う部分もあるかもしれない。

先週からコラムで「ソーシャルトレーニング」の話をご紹介していますが、その中では、「人権」とは何か、「人権を侵害する」とはどういうことか、ブレインストーミングのようにどんどん子どもたちに具体例を出させていく……という作業がありました。それは、1人1人の内面的な心の持ちようではなく、外に現れた行動が具体的にどうあるべきか考えるためのプロセスでしたが、同時に、クラス内でどんな価値観なら共有できるのかを探っていく作業でもあったと思います。

「これは普通のことだと思ってたけど、普通じゃないと思う人もいるんだな」「自分は気にしたことがなかったけれど、気にする人もいるんだな」という差異に、まず気づく。そこから「じゃあ、その中で良い人間関係を作っていくにはどうしたらいいんだろう?」と具体的な行動について考える。コラム後半もそんな「ソーシャルトレーニング」の話、続きます。

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