中野吉之伴フッスバルラボ

【きちルポ】選手とメディアの信頼関係。選手コメントは大事だけど、それだけが取材ではない。そして南野拓実のプレーから気づいたこと

▼ 選手との試合後の取材

2023年ここまでの戦績は10戦5勝5敗。

何の話かというと、試合取材へ行って選手と試合後にミックスゾーンで話をすることができた回数だ。取材陣にとって試合後の選手コメントというのは、記事化するうえでとても重要なものになる。どんな意図があってのプレーだったのか、どんな思いでプレーしているのか、チーム内での関係性はどうなのか。どんな戦術的背景があったのか。

様々な視点から質問をぶつけ、選手の《いま》を語ってもらう。読者にとっても、やはり選手本人の声というのは、ダイレクトに伝わってくる大事なメッセージだろう。

でも、試合後に選手と話ができるかどうかは本当にめぐりあわせ。プロ選手としてミックスゾーンで取材対応することの大切さは、みんなわかっているはず。その向こうには彼らを応援しているファンがいる。そこへのメッセージを残すことは、自身に帰ってくる大事なものだ。

でも試合の流れや結果、自身のパフォーマンスにいつでも満足いくわけがない。試合直後はだれだって感情的になってしまう。口にしなくていいことを口にしてしまうことだってある。それを避けるためにも、「今日はちょっと…」と断られることがあっても、それは理解できるリアクションだろう。

メディアサイドに問題があることだってある。「ここだけの話」のつもりで少し吐露した内容が、そのままネット記事になってしまうこともある。あるいは言葉尻だけを取られて、極端な見出しや内容で伝えたかったことが婉曲されてしまうこともある。

ここは本当に自戒を込めて、だ。僕は選手の思いを丁寧に伝えるために文章と向き合っているし、正しく解釈して記事に落とし込もうとしている。それでも、僕の解釈が間違って、選手が思っていたのとは違うニュアンスの記事になってしまったことだってあるかもしれない。いや、数多く記事を書いていれば、そういうこともきっとあっただろう。

ミスはだれにでもある。それは取材対応をする選手サイドにもあるかもしれないし、それをもとに記事にする僕らサイドにだっていつでもありうること。でも、サッカーというスポーツがそうであるのと同じように、ミスから学び、よりよい対応をしようとそのミスと向き合うことが大切なのだと思うのだ。同じミスを気にもせず、あるいはミスしたことに気づきもせずが一番良くない。

僕は、選手が取材対応してくれることにいつも感謝の思いをもっている。そして、試合後に話せないことがあっても、「それはそういうこと」と受け入れるようにしている。そしてそれも一つのメッセージとして受け止めることにしている。

むしろライターとしてコメントがなければ記事を書けないというのでは、あまりに情けない。サッカーの試合には様々な事象がある。様々な視座で観察することができる。それを見つけ出せばいい。

だから、冒頭に書いた10戦5勝5敗というのはとてもいい数字なのだ。感謝しかない。そのなかには、難しい状況で、話すことを拒否しても何ら不思議ではなくても、対応してくれた選手だっている。

スタジアムは素晴らしい劇場だ。すべてが詰まっている。そこにいられる幸せを感じながら、これからもサッカーを伝える仕事をしていきたいと思うばかりだ。

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