中野吉之伴フッスバルラボ

【ゆきラボ】選択肢が豊かなのは良いことだけれど。「ベジタリアン」と「ビーガン」の話

こんにちは!今週もドイツの日常をお届けするコラム「ゆきラボ」です。
まずは前回の後半で触れた「ベジタリアン」と「ビーガン」のお話から。

こちらはフライブルクのあるカフェレストランで食べたベジタリアンメニュー。肉・魚なし、乳製品と卵はあり、のワンプレートランチです。

左から順に、ヤギのチーズ、オーブンでじっくりグリルした根菜、軽くキャラメリゼした洋梨、後ろにサラダ……となっています。これにパンがつくので肉・魚がなくても充分満足なボリュームです。

先週のコラムでも書いたように、フライブルクは環境や健康や人権・動物の権利に配慮する人が比較的多いお土地柄です。市内のカフェやレストランでも、ベジタリアン・ビーガンメニューが充実している店がたくさんありますし、専門店ではない普通のスーパーマーケットにも、ベジタリアン・ビーガン食材がたくさん並んでいます。

写真はウクライナ料理の「ワレニキ」。近所のスーパーの冷凍食品コーナーにありました。たっぷり1キロ!も入ってお値段は4ユーロくらい。厚みのある餃子の皮のような生地に、ジャガイモとキノコのクリーミーなペーストが入っています。ゆでて、塩とバターとパセリ(ビーガンの人はオリーブオイル)、好みでサワークリームなどを添えて頂くものだそうです。ちなみにバター醤油で食べるのも美味しいです。

移民国家であるドイツは、こんなふうに、ベジタリアン・ビーガンメニューのルーツもとても多彩。世界各国にもともとあった野菜・豆料理に注目が集まる機会も増えており、野菜カレーが美味しいと評判のインド料理店、ひよこ豆で作ったアラブ料理・フムスの専門店、同じくひよこ豆でできたコロッケ・ファラフェルを売る屋台など、国際色豊かなお店が街のあちこちで賑わっています。

ゆで上がったワレニキ。中に包む具材のバリエーションは他にもいろいろあるらしいです

大豆たんぱく質でできたべジチキンバーガー。右上の黄色いVのマークが、ビーガン100%植物性である目印になっています

日本在住の方から、「身近にベジタリアンやビーガンの人が多いと、一緒に食事するのに気をつかうのでは?大変じゃない?」と質問されたことがあります。食事の選択肢が豊富にある現代、「ときどき一緒に食事をする友達」という間柄だったらお互いに好きなものを選ぶだけなので特に問題はないかと思います。ただ、学校や寮などで集団生活をしていたり、一緒に暮らしていたりして、日常的に一緒に食事をする間柄だと、問題はもう少し複雑です。学校での対応の難しさやコストから、フライブルクの公立校・園の給食が一律ベジタリアンメニューになった話にも先週触れました。

「相手が自分とは違う選択をしても、それを尊重する」という態度を貫ければいいのですが、給食よりさらに頻繁に食事をする間柄、ことにカップル間ではそれが難しいこともあるようです。少し前にツイッターかフェイスブックで

「あなたと一緒にいるのに疲れちゃった。肉を食べるのがどれだけ健康と環境に良くないか、これ以上説明する気力がもうないの」
「疲れが取れないのは肉を食べないからだよ」

というドイツ語のジョークがバズって流れてきました。上手く折り合いをつけているカップルや家族ももちろんたくさんいますが、一方で、結局溝が埋められずに別れたというのも、わりと「あるある話」です。親子や恋人のような分かちがたい間柄の人と、「食」という自分の健康に直結する点で見解が分かれてしまうと、この「相手を尊重する」というのが本当に難しいんだなと思います。

【ゆきラボ】話題のベジバーガー、食べてみました

2年ほど前にも、ゆきラボで一度このテーマを扱ったことがあるのですが、そのときには「『肉食派』と『草食派』の間で激しい対立があるかのように表現するのはちょっと違和感がある」「一般消費者目線で言うと、違う食生活を送る人同士が分断されているようなことは特にないと思う」というようなまとめ方をしました。みんなもうちょっと大人な対応をしていますよ、と。

その見方は今も基本的には変わっていないんですが、同時に、はっきり分断が可視化されることが少ないだけで、個人間で、グループ間で、ネット空間の中で、埋めようがない深くて暗い溝が横たわっているのも事実なんだろうなということも今は思っています。食だけではなく、例えばコロナ禍でのマスクやワクチンをめぐって、あるいはウクライナ戦争、あるいはエネルギー価格の高騰、あるいは難民の受け入れをめぐって、永遠に嚙み合わない議論をここしばらくの間にずいぶん見てきてしまったことを経ての、今のリアルな感想です。

ある著名な作家が「外国に行って違う言語や文化を持つ人とわかり合うことよりも、同じ町内に住んで同じ言語を話しているのに思想や生活習慣が違う人とわかり合うことの方が、はるかに難しい」とコメントしていました。非常に同感です。

後半は、少し目線を変えて、こんな日本食文化もドイツで浸透しつつあるよ、というものをご紹介します。

(残り 1471文字/全文: 3555文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

日本サッカーの全てがここに。【新登場】タグマ!サッカーパック

会員の方は、ログインしてください。

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ