中野吉之伴フッスバルラボ

【ゆきラボ】2023年1月、変わるもの、なくなるもの

年末のニュースで、ドイチェポスト(ドイツ郵便局)が2022年末をもって電報の業務を終了することが発表されました。ドイツでは178年の長い歴史を持つ電報ですが、なにしろ、インターネットに接続できるところなら世界中どことでもコンタクトを取ることができるこのご時世です。日本と同様に、ドイツでも祝電や弔電など儀礼的な使われ方をするだけの存在になっていましたが、きれいなカードにメッセージが印字されて届くという目的のためなら、それすらも通常の郵便で事足りてしまうのが現代の通信事情です。アナログレコードやフィルムカメラ、手書きの手紙などが根強いニーズに支えられて生き残っていく一方で、電報という通信手段はこれで完全に社会での役目を終えて引退することになります。

レトロな看板。令和の子どもの目にはどう見えるんでしょう。 https://www.photo-ac.com/

昨今では“Telegram (電報)”と検索すると、ロシア・ウクライナ関係のニュースで何かと話題になるSNSの「テレグラム」のほうが出てきてしまうほど。乗合馬車を意味する「オムニバス」が「バス」という名前になって、馬車のなくなった現代に生き残っているように、電報=テレグラムも今後はこうやって、どこかに言葉としてだけ残っていくんだろうな、と思います。

1981年生まれの私は、電報を自分で打ったり受け取ったりした経験はありません。子どもの頃は、学校の入学式や卒業式で延々と読み上げられる「しゅくでん」というのは一体何なんだろう?普通の手紙やFAXと何が違うんだろう?ということが分かっておらず、同じような文面が繰り返し読み上げられるのに辟易していました。「祝電をご披露申し上げます」から始まるあの一連の流れは、令和の学校行事でもまだ健在なのでしょうか。

昔は電話交換手という仕事があったんだよ、ということを知らなかったため、サツキは最初誰と喋ってるんだろう?って子どもの頃すごく不思議でした

電報が儀礼ではなく実用されている場面といえば「となりのトトロ」で病院から電報が来るシーンです。あれも、子どもの頃は素朴に「『レンラクコウ シチコクヤマ』って何?」「なんで病院は直接サツキの家に『お母さん体調悪いから退院は延期』って連絡しないんだろう?」と思っていました。あの超短文だけで事態を察したサツキの読解力すごいな、とも。

電話でさえ一家に一台は普及しておらず、近所の家に借りにいって、交換手に番号を伝えて、つないでもらっていた時代です。電報は何文字でいくら、という料金形態なので、なるべく文面を短くする必要があったことや、そもそも電報自体めったに使うものではなく、それが届くということ自体が、当時の感覚では何かしらの緊急事態だった……というようなことを知ったのは、ずっと後になってからのことでした。

画像はスタジオジブリ公式からお借りしています https://www.ghibli.jp/works/totoro/

水はポンプで汲み、洗濯物は足で踏んで洗い、お風呂は薪で沸かすサツキとメイの日常は目で見て理解できたのですが、電報と電話に関しては、あのトトロの世界の中で一番よく分からない仕組みだったな、と思います。自分が子どもの頃に使っていた道具や、現在系で今使っているものだって、数十年後にはなにそれ?なものになっているかもしれないと思うと、世の中の変化のスピードは本当に目まぐるしいですね。たぶん来年の今頃も、2023年の年始と年頭でいろいろなことが変わったことに、改めて驚かざるを得ない、そんな心持ちなのではないでしょうか。

今週もお読みくださりありがとうございました!次回のゆきラボもよろしくお願いします。

前のページ

1 2
« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ