中野吉之伴フッスバルラボ

【ゆきラボ】ロシア軍のウクライナ侵攻から1か月。日常に起きた変化と「『〇〇人』って何だろう」その2

ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まってしまってから、1か月が過ぎました。今こうしてコラムを書いている間にも、日々の安全な暮らしや生命が傷つけられている人の数は増える一方ですが、一方でドイツに到着する避難者の数もまた続々と増えています。公立の学校でもウクライナからの生徒の受け入れが始まり、学校からは「ロシア語かウクライナ語ができる人は通訳のボランティアをお願いします」というお知らせが届きました。ちなみに体育館は今避難者の一時滞在施設になっているため、体育の授業は当分の間グラウンドでのみ実施されるそうです。

胸が塞がれるような事態が続いていますが、助けを求めている人が目の前にいて、その人たちのために微力ながらできることがある、ということが、ちょっと心の救いになっている実感があります。普段の日常を送りながら、合間に子どもたちとウクライナ支援キャンペーンに参加したり、ウクライナへ送る救援物資を集めたりと、目の前にあることに1つ1つ手をつけていくうちに、気づけばあっという間に1か月が過ぎてしまった、という感じです。

ここ最近の日常で起こっている変化といえば、食糧事情でしょうか。日本でも報道されているかと思いますが、ウクライナもロシアも世界屈指の農業国です。かたや食糧生産どころではないほど深刻に国土が破壊され、かたや経済制裁で物流に様々な制限がかかっている真っただ中。今日明日食べるものに困るほど深刻な事態では決してないのですが、小麦粉やパスタはスーパーの棚から消えていることが多く、欲しいと思ったタイミングで買えないことが出てきました。

小麦に比べて、スーパーの棚から消えて初めてその産地に思いを馳せるに至ったのが食用油です。ドイツでよく使われるベーシックな食用油といえば菜種油とひまわり油ですが、調べてみるとどちらもウクライナとロシアを主要な産地とする作物なのだそうです。オリーブオイルや亜麻仁油やごま油はあっても、くせのない普通の油が手に入りにくくなり、しばらく天ぷらやコロッケは作りづらい日々が続きそうです。

どこの家の食卓にも欠かせないこうした食材は、極端な買い占めをする人がいなくても、1つ2つ多めに買っておこうと考える人が少し増えるだけで、あっという間に品薄になるんですよね。

友人との会話で「手に入らなくて困るものもあるけど、今戦場にいる人のことを考えたらそんなことくらいで文句言えないよね」と何気なく口にしたら「ゆきのさん、それ昭和10年代の主婦の発想?」と突っ込まれてしまいました。そういえば戦時中を描いた物語で「戦場の兵隊さんのことを考えたら食べ物のことで贅沢を言うなどもってのほか」みたいなセリフ、聞いたことがあります。まさか自分で口にしてしまう日が来るとは。

イラクやアフガニスタン、シリアやパレスチナなど、思えばウクライナへの侵攻以前から世界の様々なところで戦争はずっと続いてきていたのに、自分の生活に直接影響が出てみてはじめて「ああ、今戦争が起こっているんだ」と実感するなんて、ずいぶん自己中心的な話だなと反省しつつ、コラム後半は先週の続き「『〇〇人』って何だろう」をお届けします。

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