【グラスルーツ】英国4部クラブ選手と6歳の少年の美しい物語。クラブとは人々の思いが集まるコミュニティとして時代を超えていく存在
▼ 1人の少年のために
サッカーには大きな力がある。
そんなことを僕らはいつも口にする。そしてその通りだと思う。サッカーというスポーツを通して、僕らは普通では考えられないようなサポートが行われたり、強靭な絆が築かれたりする。
先日ビルト紙でイングランドで実際に合った心温まるエピソードが取り上げられていたので、ここで紹介したい。
4部リーグに所属するFCスウィンドンタウンに一通の手紙が届けられた。そこには小さな子供の書体で次のように書かれていた。
「スウィンドンのしあいをみにいくためのおかねをママはもっていません。たべるためのおかねがないし、がっこうにぼくのきゅうしょくのおかねをはらわないといけないから。スウィンドンタウンのハリー・マックカーディせんしゅがすきです。いつかみにいきたいです。ジョエ、6さいはん」
手紙の最後には3つのコインがセロテープで張り付けられてあった。「ハリーのために」と書き添えられて。26ペンス。日本円に直すと約32円ということになる。1ポンドにも満たないちょっとだけのお金。
でも、ジョエ君にとってはすべての希望を託した大事なお金だったはずなんだ。自分が大好きなハリーがこれでちょっとでも助けることができたらって思いを込めて。きっと、優しい子なんだ。そしてとても強い子なんだ。
クラブはすぐに反応した。残念なことに、ジョエ君は自分の住所を書くのを忘れていたという。そのためスウィンドンはSNSにこの手紙を公開。
「もしこの書体に見覚えがある人がいたら、どうか連絡をしてきてほしい」
反応はすごかった。18000以上の「いいね!」がされたほか、多くの人がサポートを申し出てきたそうだ。デイリーメイル紙は「ジョエを見つけよう!」というタイトルで記事を書き、マックカーディーはインスタグラムで「ジョエを見つけるために助けてほしい。僕らは彼のことを喜んで助けたいし、試合に招待したいんだ」と呼びかけた。あるツイッターユーザーは「1週間の食費を支払ってあげたい」とオファー。
さらにチャリティサイトではジョエと母親のための基金が募られ400人以上がサポート。5700ユーロ以上が集まったという。サイトには次のように書かれていた。
「サッカーはみんなをつなぎ合わせる。みんなの力を合わせて、ジョエと家族が試合を観戦できるように、そしてジョエが生涯にわたっての経験ができるようにサポートしよう」
手紙が届いてから1月近くがたった。スウィンドンタウンは公式ホームページで続報をアップ。
「多くの方からの関心とサポートをいただき、感謝の思いでいっぱいです。
ただ、残念ながらジョエを見つけることはできず、捜索活動を一度ここでおしまいにしなければならないことをご報告いたします。
皆様から頂いた寄付金は、ジョエのような境遇にいる子供たちを助けるための慈善団体に寄付しようと思います。
半分はスウィンドンの食事サポート慈善団体へ。一年に約7500人がサポートを受けていますが、そのうち3分の1が子供たちです。スウィンドンはパートナー契約を結びました。
あとの半分は別のサポート慈善団体へ。こちらではジョエのように試合を見に来れない子どもや家族を招待できるようにするために使われます。300人以上の子供たちがプロチームのコーチからトレーニングを受けることができ、試合前に昼食を一緒に食べ、スタジアムでの試合を観戦するプロジェクトを行います。
もし、もし我々はジョエが今後見つけることができたら、ジョエと家族を試合に招待し、ハリー・マックカーディと会える機会を設け、VIPラウンジで過ごしてもらい、試合を楽しんでもらいたいです。今期と来期のシーズンチケットもプレゼントしたいです」
ジョエ君が見つかって、マックカーディと対面できて、スタジアムでサッカーを満喫できる日がくることを心から祈るとともに、彼がしたためた一通の手紙が、《社会問題に立ち向かわなければ》と大人の意識を変えてくれたことを僕らは大事に受け止めたいではないか。
サッカーが持つ力って素晴らしい。そして僕らはその力が生まれる背景をしっかり知っておくことが大切なのだと思うのだ。
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