中野吉之伴フッスバルラボ

【ブンデス】SCフライブルクのスタジアムとクラブ躍進を支える名伯楽シュトライヒ監督の物語

▼ 3位で前半戦を折り返したフライブルク

例年ブンデスリーガは17節終了後に冬休みへと入る。前半戦首位で折り返したクラブは《秋の王者》と呼ばれるわけだが、そちらは正直みんなの興味はそこまでない。あまりに例年通りにバイエルンが首位を独走しているからだ。まったく。

先日ドイツ人指導者と話をしていたら、「今の子供たちはバイエルン以外が優勝したことを知らないんだよね」って言ってたけどほんとそうだ。バイエルンが負けるなんて誰も考えてないだろう。僕の次男は11歳だけど物心ついたころからずっとこの図式。

だからといってブンデスリーガがつまんないなんてことはない。今年は特に白熱している。2位ドルトムントは順当といえば順当だけど、その次につけているのがSCフライブルク!

まさか?いや、順位表を何度も見ているけど、本当にそうなのだ。17節前に「この試合でフライブルクがレバークーゼンに勝利したら単独3位」というのはわかってたんだけど、そしてその通りの結果になったんだけど、そして順位表上から3番目にフライブルクの名前があるんだけど、何よりスタジアムで試合をこの目で見ていたんだけど、今も夢のような感覚だ。

今年最後の取材先として僕はこのホームでのレバークーゼン戦を選んだのは、大当たりとなった。願わくば満員のスタジアムだったら、というのが唯一残念なところ。新型コロナウィルスの影響でフライブルクのあるバーデンビュルテンビュルク州はスポーツイベントのマックス収用人数を750人に制限。ガランとしたスタジアムは寂しい。でも無観客ではないし、少ないながらもファンの声援と拍手が確かに感じられるのは素晴らしい。

今季フライブルクにとって本拠地の移転というのは大きな出来事があった。そして少し前の話になるが、そんなフライブルクにとって9月26日第6節アウグスブルク戦は記録にも、記憶にも残る美しい試合だった。新スタジアムが完成したことで、1954年に完成されたシュバルツバルトスタジアムにとってこの試合が最後となったのだ。

▼ 古き良きスタジアムとのお別れ

本来昨シーズンでお別れになるはずだったが、コロナ禍の影響で新スタジアムへの引っ越しが延期となり、そのため今季もスタートは《聖地》で《有観客》で行われることになったわけだ。昨季中に引っ越しだったら、それこそ最後の一戦は無観客で行われることになっていたはず。そう思うと満員のファンとともに歴史的な瞬間を迎えることができたのはなんとも素敵な巡り合わせではないか。

風光明媚な黒い森の中にあるシュバルツバルトスタジアム。古き良き時代の香りがする作り。実はグラウンドは左右で1mも高さに差異があるという特殊性。芝の美しさとクオリティはドイツ随一。焼きソーセージをパンにはさんでビール片手に観戦するのが最高だ。

ちなみに僕が以前プレーしたチームの仲間がスタジアムの屋台でバイトをしていたので、よく焼ソーセージを無料でもらったりしていた。このホーム感!

そんなスタジアムに響くチームソング、ファンの拍手と声援が心地いい。同時に様々な思い出を呼び起こす。ふと見ると老夫婦が寄り添って立ち、じっとグラウンドを眺めていた。僕がフライブルクにきて20年。これまでにここで観戦した試合は数十試合になる。きっと老夫婦は何百という観戦を重ねてきたのだろう。

ここで泣き、ここで笑い、ここで叫び、ここで幸せを分かち合ってきた。

ファンの暖かさが感じられる場所だ。この試合元フライブルクのアウグスブルクFWフロリアン・ニーダーレヒナーが途中交代したシーンでは、フライブルクサポーターから大きな「ニーダーレヒナー!」コールがあった。このクラブから巣立った選手をいつまでも大切にする。当たり前かもしれないけど、それを心地よく受け止めることができるのは、このクラブにずっと浸透している自然なシンパティがあるからだろう。

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