中野吉之伴フッスバルラボ

【きちログ】突然持ち掛けられたオファー先は僕が探し求めていた環境。そして選手として、指導者として初めての移籍を経験した


きちログ~渡独後の歩みを思い出しながら徒然につづる回顧録~

前回のきちログ「ドイツの指導現場で直面した海外で指導者をする難しさ。自分の色を出そうとしすぎたらうまくいかないものだ

▼ 突然訪れた転機?!

バーリンガーSCのU15セカンドチームの監督を務めるようになったシーズンの終盤、僕に転機が訪れた。

実は、プレーヤーとして所属していたレアル・フライブルクでのある試合がきっかけとなった。《レアル》という名前にふさわしくなく例年9部リーグで最下位という地位を確立し続けていたクラブとはいえ、加入以来ずっとスタメンでフル出場してきていたというのは僕にとって一つの誇りでもあった。

小さくて小さい誇りかもしれないけど、高校時代公式戦出場1試合の僕からしたら、毎試合試合に出られるというのが何よりの喜びだったんだ。そして大げさかもしれないけど、僕らしくいられる証でもあったと思うんだ。

ドイツにきて4年目ともなると、いろんなところで摩耗してくるものもある。指導者として苦戦し続けているというのもそうだし、生活を切り盛りしていくのにやらなきゃいけないこともたくさんある。海外で暮らすという地盤を築き続けるためには、いろんなところで結構ギリギリな場面と遭遇する。

そうした意味で、週末のサッカーは自分の居場所を確認するうえで大事な芯となるものだった。それなのにあの時期はなんだか気持ち的にもコンディション的にもどうにも調子が悪く、プレー面でもうまくいかないことが多かったし、そのシーズンは監督とも良好な関係が築けいるとはいえなかった。

ドイツにおける一番下のリーグだから降格がないとはいえ、さすがに毎年最下位というのはクラブとしても考えものだ。このシーズンは他クラブから有能な選手を5-6人補強し、監督も経験豊富な人を呼び寄せて上位進出をもくろもうとした。

でもいくら9部リーグとはいえ、チームはそんな簡単に機能したりしない。補強メンバーとそれまでチームにいたメンバーと仲たがいするシーンが少なからず起こり、それを解決すべき手立ても打たれず。

思うように勝ち点が伸びないという事情もあったのだろう。リーグで首位を走っていたクラブとのアウェー戦で、僕ははじめてスタメンを外された。

仲のいいチームメイトからは「うちのエースを外すなんて監督は何考えてるんだろうな」などと言って慰めてくれたけど、そのこと自体はうれしかったけど、やはりスタメンを外されるとショックでベンチで1人ボヤッとしていた。

荒療治は大した効果がなく、首位チームにいいようにやられていく。そんな様子をベンチから見ながら、頭の中でぐるぐると考える。

「試合に出られないのは悔しいけど、だからってチームがこんなにやれるのを喜ぶなんてもっと嫌だ。最近は余計なことを考えすぎていたかもしれない。今日出番をもらえたら、頭を空っぽにして、純粋にプレーを楽しもう。自分ができるプレーを全部出してみよう」

指導者としてうまくいかないことに引っ張られたりしていたから、どこかで吹っ切る必要があったのだと思うんだ。

だって、僕はサッカーが大好きなんだから。サッカーを心から楽しみたくてここまで来たんだから。そんな自分に、嘘はつきたくないじゃないか。

ハーフタイムに声がかかった。後半開始から攻撃的MFで出場。前半押され込まれてチームを引っ張るべく、ピッチ上を走り回った。不思議と体が軽い。頭がすっきりしたからだろうか。試合自体は0-3で敗れたけど、きわどいシュートを3本放つなど、それまでに比べるとかなり納得のいく動きをすることができた。やっぱりサッカーは楽しい。

そんな僕が控え室へと戻る途中に、相手チームの監督に声を掛けられた。

「今日の試合、君がベストプレーヤーだったよ。よかったら来シーズンうちに来てくれないか」

ドストレートなスカウトを受けた。いや、これまでにも他クラブから声をかけられたことは何度もある。ただいつもは何となく話を濁して逃げていたが、この日はなぜか「話を聞いてみようかな」という気になったんだ。

いろいろと行き詰まりを感じていた時期だから、《環境を変えたい》という思いがあったのも事実だし、相手チームが非常に躍動感のあるアグレッシブなプレーをしていたことも、頭の片隅にあった。監督の話し方が情熱的で、心に響いたというのもある。

直感的に「このチームでサッカーをしてみたいな」と思ったんだ。

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