中野吉之伴フッスバルラボ

【サッカーと生きる】プロ選手=幸せな人生、ではない。自分に合ったセカンドキャリアを見つけるための取り組みが大切だ

ちょっと前にプロ選手のセカンドキャリアの大切さについてまとめたコラムをnumber webに寄稿した。プロの世界、それも世界最高峰のプレミアリーグやブンデスリーガといった舞台が夢のような世界であるのは間違いないが、同時にそこで契約を勝ち取り、プロ選手としてプレーすることがそのまま幸せな人生を確約するものではないという事実をまとめたものだ。

現実社会との乖離が広がれば広がるほど、現役引退後の人生は苦しいものになってしまう。

「イングランドではプロ引退後の選手の40%が4年以内に破産している。(アメリカの)NFLではもっと顕著で70%という数字が出ている。そして、3分の1が1年以内に離婚している」

セカンドキャリアの大切さについては、アシタノカレッジさんで少しお話しする機会をいただいたのでこちらもどうぞご参考に。

今回はセカンドキャリアについての別の話を紹介したい。

▼ ゲルト・ミュラーが現役引退後に漏らした言葉

ゲルト・ミュラーは世紀の点取り屋として世界のサッカー史にさんさんと輝くレジェントだ。西ドイツ代表ストライカーとして74年のワールドカップ優勝へ貢献し、ブンデスリーガでもバイエルンで数々のタイトルを獲得。ブンデスリーガ通算427試合で365ゴールという驚異的な数字を残し、特に71-72シーズンには前人未到となる40得点を記録した。

シーズン最多得点は今季ロベルト・レバンドフスキに敗れたもの、ドイツではいまも史上最高のストライカーとして最大級のリスペクトをされている選手だ。

そんなミュラーだが、現役引退後にはアルコール依存症で苦しんでいたことをご存じだろうか。晩年プレーしていたアメリカからドイツに戻ったあと、仕事がない時期が続いていたという。

ミュラーが漏らしていた言葉が重い。

「ドイツに戻ったけど何も起こらなかった。俺も何もしなかったが、あれは間違いだった。仕事がなければ何をすればいい?一日は、長いんだ…」

自暴自棄になったミュラーはアルコールに手を出してしまったという。

最初は少しずつだったが、気が付くと朝から飲むようになってしまう。メディアにも「アルコール依存症では?」と勘ぐられだした。自分一人ではもはやどうしようもない状態になってしまった。

そんなミュラーに救いの手を差し伸べた人物がいる。現役時代からの盟友で元バイエルン会長のウリ・ヘーネスだ。

「ゲルト、君が助けを求めるなら、我々はそのための準備ができている。問題ないならいい。でも本当に助けが必要ならば、君のために私のオフィスのドアはいつでも開かれているよ」

連絡を受けたミュラーはその1週間後に、扉をたたいた。「助けが必要なんだ。アルコールで問題があるんだ」と打ち明けて。その後専門の病院で療養をしっかりと受けた後、育成指導者としてバイエルンへ復帰。生きる意味をまた見つけることができた。

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