中野吉之伴フッスバルラボ

平川聖剛「セカンドコーチの立場とか役割とかをわかってないのかなって」

中野「大学のとき?」

平川「はい。それが結構おもしろかったんで。僕キャプテンとか副キャプテンとかではなかったんですけど、なんかみんなに頼ってもらえるタイプでした。そこから就活を辞めようかなというのと、大学院に行くのか、それかサッカー関連で働くか。そんなときに僕の友達で海外に行きたい人がいて、大学サッカー部OBのケルン体育大出た人に話を聞きに行くことがあったんですよ。僕もお会いさせてもらって、話を聞いて『おもしろいかもな』というのがドイツ行きのキッカケでしたね」

中野「近くにキッカケくれる人がいたというのはつながりがあるんだね。それまでに『ドイツ』というキーワードが頭にあったわけではないんでしょ?」

平川「そうなんですけど、高校のときに何を思ったのか、日本だと高校で進路を決めるときに3者面談しますよね。その前に自分の希望を書くんですけど、ずっと1位のところにイギリスの大学って書いてたんですよね。なんとなく海外に行きたいのがあったのかなって。あと大学の2年生まではA、B、Cチームがある中で、BとCだったんです。2年でAチームに上がれなかったりしたら2年生でもう辞めて海外行こうって思っていたのもありました。そういうことがいろいろとマッチングし始めたのかな」

中野「その人と話をしていて印象に残った言葉とかはあったの?」

平川「当時大学の授業を受けていて全然おもしろくないと思っていたんですよね」

中野「日本でしょ? 俺の大学時代の時はそうだったけど、真面目に受けている人の方が少ないという印象はあるよね」

平川「確かに。でも、実際そうじゃないですか。自分がちゃんと勉強してたらおもしろかったのかもですけど。でも、そんなときにその人が、大学でサッカーの授業があって、2チームに分かれて、それぞれで戦術を考えて戦うというのを授業でやって、そこへの取り組み方とか立ち振る舞いとか、総合で成績にも関係してくるというのを聞きました。『へえぇ、そんな世界があるんだ。全然違うなぁ』って感じましたね。行ってみたいなぁというのが印象に残ってますね」

中野「役に立ちそうという実感がその話から伝わってきたんだろうね。それまで大学でやってきた勉強からは『たぶん大事なんだろうけど』という枠を超えなかったのかもしれない」

平川「はい。実際実践的だなと思いました。教育実習したときも、それが終わった後にもっと勉強しないとって気づいたんですよ。でも、実習があるのは大学3年の後期と4年の前期なんですよ。だから気づくのが遅かったし、教育実習ずっとやってる方が自分の身につくんじゃないかなという思いもありました。そんなタイミングで話を聞けたというのも自分にとっては大きかったのかなと。その人は日本で5年くらい教職やってからケルンに行ってるんですね。だから、なんか親近感みたいのはあったと思います」

中野「そういう人もいるものね。30歳前のタイミングでこれがラストチャンスだからと言ってケルンで勉強したいという決心で来ている友人もいる」

平川「それも思ったんですよ。もうちょっと日本で実践してからの方がいいのかなとか。でも、それをするために耐えなければならないことを考えたときに今がいいなぁと」

中野「それに『勉強したい』というタイミングで来るのがいいと思うんだよね、来れるんなら。経験積んでからといってもその間に自分の中でどんな心境の変化が生まれるかはわからない。もちろん、来ることが正解ではないし、日本でがんばることが間違っているわけでもない。日本の現場ですばらしい仕事をしている方々はたくさんいる。でも、こっちで勉強したという思いがあるなら、その思いが燃えているときに来るのがやっぱりいいんじゃないかなって」

平川「日本ってそういうのあると思うんですよ、出ずらくなるというか。部活を持ってしまうと辞めるに辞められないし。いろんな人間関係の中で動けなくなってしまうこともあるかもしれないですし」

中野「夏にドイツにある指導者研修の通訳兼アテンドをしたんだけど、一人学校の先生で参加していた人が3日目だったかな、待ち合わせ場所にいなかったら、『あれ? 今日は別行動なのかな?』と思っていたら、日本から連絡があって、登校日かなんかで急遽帰国しなきゃいけなくなったって…」

平川「マジっすか? 考えられないな」

中野「地元チームの練習はちょっとは見られたけど、週末に行くはずだったブンデスリーガの試合も見に行けず。というか、そもそも休みを取ってきているはずなのに『なぜ帰らなきゃいけないんだ』というね。ちょっと極端な話だけどね。きっちりやることは日本のいいところではあるんだけど、どうしてもそれが極端になってしまうことが多い。ドイツの授業だと、うちの長男は5年生でギムナジウム(※ドイツは小学校は4年生まで。ギムナジウムは大学進学資格を取るための学校)通っているけど、休講とか普通にある。1〜2時間目の授業が休みになったから3時間目に合わせて通学すればOKとか」

平川「例えば、教育実習やっていたときにも感じたんですけど、休んだ子に対して『なんで休んだ?』って空気があるので、先生も自分が休むことに対して矛盾を作らないようにして、模範的であろうとして無理してしまうというのはあるかなと」

中野「でも、だから子どもが苦しくなるという面もあるわけでしょ? 本当につらくて休みたいときでも休みにくい、みたいな。ミスに関してもそうだね。ミスが許されない空気がある。その感じは先生だけじゃなくて、指導者にもあると思うし、絶対的な存在としてやろうとする人がどうしてもいる。だから、その人の言うことが正しいと子どもが思わなければならない」

平川「それはこっち来て思いましたね。日本だと選手から監督にコミュニケーションはとりずらい。何か考えてプレゼンのような感じで話す準備をする。いまプレーしているチームの監督のディノもそこが全然違くて、話しやすいし、向こうから『どう思う?』みたいなことを聞いてくれる。だから、彼が僕に求めていることもなんとなくイメージしやすいし、決断を受け入れやすい。僕がミスしたりしたときに『僕が何でそのプレーをしたのか』を彼らがわかってくれる関係性がある」

中野「うちのチームの子らでも納得いかないことがあると『話がしたい』と言ってくるし、元気がなかったり、不満を抱えている様子に感じたらこちらから『ちょっと話をしよう』と言ってコミュニケーションを取る。そういうのがしやすい空気感があることが大事だと思うんだ。その場その場ではもちろん大変だけど、シーズン全体とかその先のことを考えると、話すべきときに話せるのはお互いにとって非常に意味があること」

平川「この前のSCフライブルクU15とのテストマッチの時も、FWの選手が控室で文句言っていたじゃないですか。『なんで俺が今日スタメンじゃないの?』って。あれ日本でやったらすごく怒られると思うんですよね」

中野「もちろん、あれがいいというわけではないよ。監督の決断に対して文句を言っていいわけではなくて、試合に集中しなきゃいけないときにその説明に時間を割くにはチームにとってもよくないことだからね。不満があってもそこでは受け入れる。聞きたいこと・言いたいことがあるならこちらはそれに答える準備はできているんだから、そのコンタクトの仕方を知ることが必要になってくる。試合後や次の練習時にじっくりと話をする。その距離感やタイミングをU16の選手はもっと学ばないといけない。でも、年齢的なこともあり、すぐに受け入れられる子ばかりなわけじゃない。わかっていてもこみあげてくるものをなかなか処理できない子だっている。だから、そのあたりのさじ加減やバランスが大事になってくるわけだよね。そのためには監督とアシスタントコーチの役割分担が必要になる。監督がスタメンを決めて、戦術の説明をして、という役割を担っているならば、アシスタントコーチはスタメンから外れた選手に理由を説明したり、励ましたり、なだめたりしてほしいわけだよ」

平川「そこほんとそうだと思うんですよ。僕もアシスタントコーチでチームに関わっているなかで、選手の不満を聞いてあげたりして監督と選手の関係をの間に入って円滑に回るようにするのって大事だなって。僕が監督を助けなきゃいけないし、選手もだし。戦術のことだけじゃなくて、それ以外の人間関係的なこととかメンタルのこととかも。だから、練習が滞りなく進むようにボール拾いしたり、ビブスを準備したり、そうやって選手と話したりして助けになろうと思っていたんですけど、まだドイツ語の能力が低いので、それができないなというのがありますね。それは次のステップに向けてしっかりと準備できるように自分の課題としてとらえています」

中野「しゃべれるしゃべれないというのは確かにあるよ。しゃべれた方がコミュニケーションをとりやすいというのもそう。でも、しゃべれないなりに話しかけたりとか、輪に入って一緒にボールを蹴ったりっていうのは、子どもたちはすごくうれしいことだと思うんだよね。特に年齢が近い方が打ち解けやすい。これは最近俺自身が感じていることでもあるんだけど、以前だったら俺がその立場にいることができた。一緒にプレーしたら子供らが驚くプレーができていたわけだよ。『キチ、すげーなー!』って。でも、40歳を超えて現役選手としてプレーすることから離れると、選抜選手が多数いるレベルが高いU16チームの中で一緒にプレーするとスピードとかでついていけない部分もやっぱり出てくる。そうなると選手たちとプレーをする上でのやり方も変えていかなきゃいけなくなる。それは俺自身の課題。そんなわけで20歳ちょっとの、選手からすると兄ちゃんぐらいのコーチが一緒にプレーするのは、選手にとって素直に受け入れられるものがあるのは事実ある。それぞれの立場の人がそれぞれのやり方でチームに関われるようになると、すごくやりやすい空間ができる。その点でいうといまアシスタントコーチのミヒャエルとの関係性はもう少し分けたいなと」

平川「それ僕も思いますわ。ミヒャエルがもっと聞き役になるというか」

中野「そう、なってほしいの。まだでもミヒャエルは指導者を初めて1年目だし、そこまで詰め込むことができない。オーガナイズのこととか、すんごくいろいろと助けてくれているのはわかっているしね。できるだけ近くにいてくれた方がサポートもしやすいしと思ってやってるけど。もうちょっと慣れてきたら、俺がチームの空気をピリッとさせる役割とか怒鳴るとか悪役部分は背負い込むから、その分ミヒャエルには選手の話を聞いて、不満を吐き出させてというのをしてほしい」

平川「ミヒャエルは『監督をやりたいのかな』というのは感じています。セカンドコーチの立場とか役割とかをわかってないのかなって」

中野「それもあるかもしれないし、まだ自分が指導者として何ができて何ができないのかというのもそこまであるわけじゃない。難しいタイプの選手が多いのは確かだし、年代的にも簡単じゃない。でも、前に聖剛が友だちに言ってた話だけど、『選手は中野さんのいうことは聞くけど、俺のいうことやミヒャエルのいうことは聞いてくれない』って。それは俺が監督だからという立場的なものだけではなくて、どうしたら選手らは話を聞くのか、どういえば動くのか、どうすれば気分が乗るし、どうすれば不満があっても真剣にやろうと思うのかという経験があるから。声のトーンとかメリハリとか言葉遣いとか。話してる内容が俺とミヒャエルと一緒なのに、俺が話をしないとという時があるというのはそういうことだと思う」

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