中野吉之伴フッスバルラボ

狂った歯車を好転させるために指導者はどう手立てを打つのか。

ドイツで15年以上サッカー指導者として、またジャーナリストとして活動する中野吉之伴。彼が指導しているのは、フライブルクから電車で20分ほど離れたアウゲンとバイラータールという町の混合チーム「SGアウゲン・バイラータール」だ。17-18シーズンは、そこでU-15監督を務めている。

この「指導者・中野吉之伴の挑戦」は自身を通じて、子どもたちの成長をリアルに描くドキュメンタリー企画だ。日本のサッカー関係者に、ドイツで繰り広げられている「指導者と選手の格闘」をぜひ届けたい。第一回「シーズン開幕に向け、ドイツの監督はプレ準備の期間にどんな指導を行っているのか」に引き続き、第二回をご一読いただきたい。

指導者・文 中野吉之伴(【twitter】@kichinosuken

▼ 指導者・中野吉之伴の挑戦 第二回

SGアウゲン・バイラータールU15は今季開幕戦を3-1で快勝した。次の試合も3-1で勝利し、2節を終えた時点には首位に立っていた。だから、子どもたちの表情は非常に明るかった。

「自分たちは強いんじゃないか」
「ひょっとしたら結構いい成績が収められるんじゃないか」

そんなことを考えるのは悪いことではない。でも自分たちのことを、ある程度は冷静に見る目も大切だ。私から見ても現実的に考えて、現時点でのリーグの立ち位置は中位レベル。うちは選手層が厚いわけではない。これからリーグ戦は長い。いつもイメージ通りに点が入り、勝ち点を取れるわけではない。

案の定、3節を0-3で落とすと、目に見えてチームの勢いが悪くなった。選手たちは「こんなはずじゃないのに…」という思いだけが膨らみ、軽率なミスから失点をしてはそれに逆上してさらにリズムを崩していく。攻撃は無謀なドリブル勝負か、意図のないロングボールが増え続けた。

半分以上は、昨年までU13でプレーした選手たちだ。

ドイツでは、U13まで9人制で行われる。ピッチは大人サイズのペナルティエリアからペナルティエリアまでのサイズなのだ。だから、今季から戦っている11人制とは違う。体のサイズも大きな差が出る年代だ。早熟な子は180cmくらいある一方で、晩熟の子は140cmも満たない子もいる。ボールを巡る競り合いではパワーもスピードも激しさも違う。そうした中で自分のプレーを常に出せるようになるには、様々な経験が必要になる。

サッカーに関する取り組みにも変化が求められる。

ドイツではCユース(U14~)から青年期と区分され、U11までのジュニア期とU13の移行期と大きく分けて考えられるのだが、それはU13くらいの年齢になると自身の世界感や考えに変化が生まれ、他のことにも興味を持つようになるからだ。12歳までの頃のように誰もが当たり前に無邪気にトレーニングに来て、いつでも無条件に一生懸命に練習しようとするわけではなくなる。サッカーから離れていく子も増える。「自分にとってサッカーは大切な存在」と、気持ちをあらためて持てるかどうかの大事な時期だからこそ、我慢強く誠実で正面から向き合ってくれる大人の存在は非常に重要だ。

ちょっとした事件が起きたのは、4節の試合後だった。

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