【中倉’Voice】ピッチに立てなかったもどかしさ。思うような結果を得られなかった悔しさ。その想いはピッチでしか晴らせない
降り注ぐ強い日差しと9月にも拘わらず真夏日が続く雁の巣球技場で、アビスパ福岡はJ1第30節町田戦に向けて、連日激しいトレーニングを続けている。前節から中13日で行われることもあり、3日には選手同士でミーティングを実施。それぞれが胸にする想いをぶつけ合う機会を持ち、改めて自分たちが何をしようとしているのか、そのためにするべきことは何かを確認し合った。すべては日々の積み重ね。常に最大出力を発揮することでJ1で戦うことができる。それはアビスパが何よりも大切にしているものだ。
一般公開日となった10日のトレーニングは、ジョギング、フィジカル系のトレーニングといつもと同じメニューで進んだが、身体が温まっていくのと同時に、あちこちから仲間を鼓舞する声が上がる。2組に分かれて行われたボールポゼッションのトレーニングが始まると、それぞれがそれぞれの仲間に対して要求する声がさらに大きくなっていく。長谷部茂利監督も「残りの試合に向けて選手たちの意気込みというか、結束力みたいなのを感じる」と目を細める。
コンディション不良で全体練習から離脱していた選手たちがピッチに戻ってきたことも、残り9試合に向けての好材料だ。それぞれの選手のコンディションには差があり、全員が次節までに戦列に復帰できるかどうかは不透明な部分もあるが、その中で見学に訪れたファン、サポーターの熱い視線を集めていたのがドウグラス グローリだ。第22節京都戦の77分に途中交代でピッチを退いてから約2か月間に渡って戦列を離脱。その間、京都戦を含めて無失点試合はひとつもなく成績も3分5敗と勝ちがない。誰もが彼の復帰を心待ちにしている。
この日は全体練習にフル合流。まだ100%ということではないだろうがコンディションは整いつつあるようだ。
「コンデイションは徐々に上がってきている。次の試合まではもう少し良くなるだろうし、少しずつだが休んだ分を取り返して、より良いコンディションになるようにトレーニングしていきたいと思っている。自分が試合に出れば失点が0になるというわけではないが、それに近づけるように、チームのために戦える準備をするのが今の自分の役割」
約15年にわたるプロ選手としてのキャリアの中で、約2カ月に渡って戦列から離れるのは初めてのことだそう。試合に出たいという想いは誰よりも強くなっているようだ。
「試合が恋しいし、待ち遠しいし、早く試合に出たいという想いでいる。もう二度と離れないという想いでリハビリやケアに励んできた。いつでも出られる準備はしている。できるだけ良い試合をして、多くのサポーターの前で最高の結果を出せればと思う」
「博多の森の重戦車」がピッチに戻ってくるのは遠くはないようだ。
そしてもう1人、自分と向き合いながら悔しさと戦っている選手がいる。井上聖也だ。グローリ、宮大樹の不在(出場停止)で直近の5試合中4試合に先発で出場したほか、G大阪戦では77分にピッチに登場した。しかし、いずれも勝利から見放され、失点を喫したことでアグレッシブなプレーが影を潜めた。失点は個人の責任ではないが、それでも自分が守るサイドから失点をすることに最終ラインの選手としての責任を強く感じていたのだろう。
だが、そこから逃げては何も生まれない。またドウグラス グローリが帰ってきたからこそ、切磋琢磨してポジションを渡さないとの想いがなければプロとして生き残ってはいけない。どのような想いで日々を過ごしていたのかは彼自信が知るところだが、「いい準備ができている」と口にするように、この中断期間は彼にとって良い時間になったようだ。
「守備でも攻撃でも、与えられたポジションの役割を果たしつつ、よりアグレッシブにアビスパのサッカーを後ろからも再現できるようにするということが大事だと思っている」
もちろん、最終ラインの選手としてチームの守備をオーガナイズする役割を理解したうえで、最後は自分のところでは絶対にやらせないようにしたいと口にする。ピッチで味わった悔しさはピッチで晴らす以外に方法はない。
プレーに現れるのは、それぞれの選手が胸に秘める想い。それは日々の積み重ねの結晶と言えるもの。それでも相手があるサッカーという競技では、それを出させてもらえないこともある。時として情けない想いでいっぱいになることもあるだろう。けれど、それでも逃げずにぶつかっていくことで何かが見えてくる。そして、その姿が見るものに何かを伝える。
ベンチメンバーも含めて町田戦の18人に誰が選ばれるのかは分からないが、誰が選ばれようと、チームに所属するすべての選手で、スタジアムに集うファン、サポーターとともに、そしてアビスパに関わるすべての人たちが一つになって戦うのがアビスパのスタイル。これまで以上の一体感で町田を迎え撃ち勝利を手にすること。それがチームの最高順位となる6位へ向かう力強い一歩になるはずだ。
ドウグラス グローリ選手コメント(全文)はこちらから
井上聖也選手コメント(全文)はこちらから
[中倉一志=取材・文・写真]