【中倉’Voice】難しい状況を乗り越えるために必要なものは何か。その答えは日々の雁の巣球技場でのトレーニングの中にある
8戦勝ちなし。難しい時が続いている。改めて振り返れば「リーグ戦3連敗はショック。それしかない」と監督が振り返った第24節東京V戦が底。中断期間を挟んでアビスパは自分たちらしさを取り戻しつつあるように見える。攻撃の質、ゴール前の質という依然とした課題はあるにせよ、どんな相手ともギリギリの戦いに持ち込み、数は少ないとは言え決定的なチャンスを作り出す内容は、過去4年間、記録と記憶に残る戦いを演じたアビスパの戦い方そのものでもある。
だが「らしさ」が戻っていない部分がある。それは失点シーン。中断期間後の5試合に無失点試合はなく、8失点のうち5失点がキックオフ直後の15分、前後半の終了間際の15分のいわゆる危険な時間帯に集中している。現時点でのアビスパの立ち位置からすれば、ギリギリの勝負に持ち込むには危険な時間帯、注意すべきシチュエーションで失点しないことが大前提。過去4シーズンはそうやって勝点を積んできた。それが緩んでいる。
2020年にJ1復帰、J1定着を目標に掲げてスタートしたチームは、昨シーズン、4年目にして集大成とも呼べる内容、結果を残した。そして迎えた今シーズンは更なる未来に向けての新たなスタートを切ったシーズン。戦いのベースは変えることなく、あらゆる部分のクオリティを上げるチーム作りに着手した。監督、チームスタッフ、選手がともに一つになって前へ進む姿はこれまでと変わらない。
しかし、J2の16位からJ1復帰・J1定着を目指すチャレンジと、J1の中位から上位を目指すチャレンジとは質が全く異なる。そのチャレンジは今まで以上に難しい。そんな中で、多くのコンデイション不良者を抱えながらも、現時点(第29節終了時)で目標の6位を捉えられる位置に付けている現状は及第点と言えるかもしれない。しかし、神戸戦後の記者会見で、個の、そしてチームとしての質の違いを認めつつも「それはもう分かっていたこと。言葉だけではなくて、積極性、アグレッシブというのを、もう少し出せたら、もう少し変わった展開になったんじゃないか」と語ったように、そこに満足していては未来は見えてこない。
そんな状況を跳ね返すべく、選手たちは変わらぬ姿で前を向いてトレーニングを重ねている。チームの雰囲気を聞かれると「雰囲気はいつも良い」と必ず長谷部茂利監督が語るように、2020年の始動日から、先日(9/4)の公開練習日に至るまで、その雰囲気は全く変わらない。誰もが100%の力でチームの勝利の為に日々のトレーニングに臨んでいるのは、見ている者すべてに伝わっている。そのうえで長谷部監督は次のように話す。
「競争している感じがちょっと少ない。気持ちが通じ合っているから、仲がいいから、雰囲気が良すぎて、そうやって鎬を削り合うようなことが少ない。そういうことがあるのが本当の意味での私の中での良い雰囲気」
宮大樹も同じようなことを口にする。
「もっとギラギラしてもいいんじゃないか。去年までは、たまにお互いが熱くなってバチバチするシーンがあったが、今年はそういうシーンが少ないと感じている。それはお互いに本気でやっているから起こり得ることで、そういうことはチームに熱を与えるというか、そういう雰囲気をまとわせられる。もっともっと練習でバチバチしてもいい」
チームが勝利するために自分が何が必要だと考え、何をしたいのか。それを遠慮なくな仲間にぶつけ、要求することで、それぞれの責任と役割がより明確になり、もう一つ上の一体感が生まれる。それがディテールへのこだわりにつながり、本来のアビスパらしさが戻ってくる。それは、もう一つ上のアビスパに向けて一歩を踏み出すことにもなる。
(2024.04.24撮影)
4日の全体練習終了後、選手たちはコンデイション不良でリハビリに励んでいる選手も含めて、全員が会議室に集まって選手ミーティングを行った。
「それぞれが胸に秘めている想いがあるけれど、それを発信する場がなかったり、積極的にそういうことを発信できる人もいれば、そうでない人もいる。ここから中断期間だし、まだ9試合あるんで自分たちでいくらでもまだまだ上にもいけるだろうというタイミングだった」(奈良竜樹)
それぞれの想いを口にしたミーティングは「良い話し合い、意見交換、共有ができた」と奈良。そして続けた。
「話し合いも大事だし、練習も大事だし、全部大事だけれど、結局ひとつ勝つことが一番大事。ミーティングはそのための手段。また明日から良いトレーニングできるんじゃないか」
あとは、その想いと積み重ねた日々の成果を町田戦で結果で示すだけ。勝利を求めて激しく戦う選手とスタジアムを包む一体感。いつものアビスパらしい戦いで勝利を掴みにいく。
宮大樹選手コメント(全文)はこちらから
奈良竜樹選手コメント(全文)はこちらから
[中倉一志=取材・文・写真]