【中倉’Voice】圧倒的なスピード、パワー、高さがストロングポイント。そのフィジカルでベスト電器スタジアムに風を吹かせる
「スピード、パワー、高さに関しては高校のレベルを飛び越えている、そんな選手。特に相手ゴールに飛び込んでいく迫力はもうウェリントン級。そのぐらいの迫力のある選手」
サニブラウン アブデル ハナンのトップチーム昇格内定を決めたポイントを話す柳田強化部長の言葉に力がこもる。技術、個人戦術ではまだまだ足りない。しかし、そう判断しながらもトップチーム昇格内定を決定した理由がそこにある。
ご存じの通り、サニブラウン アブデル ハナンは、日本陸上短距離界のエースにして、パリ五輪でも100m、400mリレーに出場したほか、数多くの世界的な大会で活躍するサニブラウン アブデル ハキーム(25)の弟。身体能力の高さは兄に引けを取らない。
高校2年時まではアビスパU-18のAチームで先発出場することはなかったが、高校3年生になって出場機会を得ると急成長。高円宮杯 JFA U-18 プリンスリーグ九州では第10節(8/24現在)を終えて3得点。第48回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会でも2得点を挙げてチームのベスト4進出に大きな役割を果たした。柳田強化部長は「磨けば光るダイヤモンドの原石のような選手」と最大級の賛辞を贈る。
ただ、彼の急成長はフィジカル能力の高さだけによるものではない。自分の置かれている立場を把握し、何をしなければならないのかを整理し、それを実行できる力。それこそが彼が急成長できた理由だろう。高いフィジカル能力を有しながら技術、個人戦術でチームメイトに先を行かれ、試合に出られないために試合勘でも差を付けられ悔しい想いをする中で、自分のできることを精一杯発揮するために、練習で、そして練習試合でとにかく走り回った。
そしてフォワードの選手の怪我で自分に出場機会が巡ってきたときには、その役割を果たすために改善が必要な部分の修正に努めた。そして試合に出るたびに見つかる課題に取り組み、それを解決することで新たな課題が見えるようになり、その繰り返しの中で成長の手ごたえを掴んできた。トップチームへの昇格内定を伝えた兄から送られた「頑張れ」という短いメッセージに「『自覚を持ってやれよ』ということだと感じた」(ハナン)のは、そうやって彼が常に自分と向き合ってきたからだろう。
目標とするのはトップチームで前線の起点としてチームをけん引するウェリントン選手。「ウェリントン選手のようにチームのために身体を張り、全てのボールに対して戦い、チームの為につぶれることができるような選手になりたい。これからは今までよりも近いところで見れるので、いろんなものを盗んでウェリントン選手を追い抜けるように頑張りたい」と話す。そう話す彼を見ながら柳田強化部長は「自分を分かっている選手」と目を細めた。
Jリーグが創設されて間もない頃、ピッチを駆け抜ける圧倒的なスピードで敵見方関係なくスタンドを沸かせた選手がいた。やがて彼は日本を初めてのW杯に導くゴールを決めた。その選手のように、ハナンが持つスピード、パワー、高さに新しいアビスパの姿を託すのも悪くはない。
[中倉一志=取材・文・写真]