「football fukuoka」中倉一志

【中倉’Voice】「自分たちは何をしようとしているのか。そのために何をするべきか」。苦しいからこそ原点を見つめて前へ進もう

まったくと言っていいほど何もさせてもらえなかった新潟戦。前半はことごとくプレスを剥がされ、一方的にボールを支配され、幾度となくピンチに見舞われた。宮大樹、村上昌謙らの身体を張ったプレーがなかったら前半だけで大量失点してもおかしくない、そんな内容だった。それでも前半の失点は0。内容はどうであれ相手に得点を許さず、そしてわずかなチャンスをものにする。ある意味、そういう戦いもアビスパらしさと言えるものだった。

そして後半開始から井上聖也に代えて前嶋洋太を投入。システムを4-4-2に変えると明らかに前半とはリズムが変わる。「前半0-0なら俺たちのリズム」というのは過去4年間にわたって何度も選手たちが口にしてきた言葉。そしてワンチャンスを活かして勝利を手にした試合は少なくない。この日もそうなることを期待する空気感がスタンドに広がっていくのを感じる。だが一つのプレーがそんな想いを打ち砕いた。

49分、自陣の深いところから藤原奏哉(新潟)、舞行龍ジェームズ(新潟)を経由して送られたダイアゴナルなフィードが、高い位置取りをしていた小田逸稀の背後に待ち構えていた谷口海斗(新潟)に届く。谷口は対峙する田代雅也を左にかわして右足を一閃。ここまで好セーブを見せていた村上昌謙もノーチャンス。鮮やかな弧を描いたボールがゴールネットを揺らした。

「粘り強く戦って0失点が比較的多いチームを作り上げてきたが、ここ何試合かは、そこで点数を取られてはというところで取られている。当然、勝敗に直結する」と振り返ったのは長谷部監督。その後、同点に追いつき、そして逆転を目指したアビスパだったが、チャンスらしいチャンスを作れないままに敗れた。

アビスパはこれで中断期間を挟んで6戦勝ちなし。この日は今季最悪とも思われる内容ではあったが、アビスパの置かれいる立ち位置を振り返れば、望んだ内容ではなかったにしろ、一方的にボールを持たれて守備に終われる苦しい戦いも想定の範囲内。これまでとの違いと言えば、我慢すべきところで我慢できずに失点してしまったこと。粘り強くはあるものの、ボールを奪いに行く守備が機能せずにピンチに見舞われている。「良い守備から良い攻撃」というアビスパの生命線が表現できていないことが要因になっている。

「全員が全員『行きたい』というところと、『行かなければ』という想いがある中で、それを一人ひとりの想いだけでやるということではなく、相手にどこに持って行かせて、どうやって取るのか、そういうことをチーム全体として持ってやらないといけなかった」
これは新潟戦の守備を振り返った松岡大紀の言葉。相手との力関係、スタイルの違い、その時々の状況に合わせて、自分たちの強みを発揮するためにどのようにプレーすべきか。その判断と意思統一に少しのズレが生じていることは否定できない事実だ。

そして迎えるG大阪戦。前回対戦ではシャハブ ザヘディのスーパーゴールで勝利を挙げた相手だが、13勝8分6敗の勝点47で4位につけている上位チーム。水曜日に天皇杯を戦い中2日で今日を迎えていることや、ウェルトンが出場停止などアビスパにとってはアドバンテージと思われる要素もある。だが「代わって入る選手も素晴らしい」と長谷部監督が口にするように選手層は厚い。また自分たちに目を転ずれば、右から左へ解決できるという簡単な課題など存在するはずもなく、6戦勝ちなしという状況から抜け出すのは簡単ではない。間違いなくG大阪戦は難しい試合になる。

そんな試合にどう臨むか。長谷部監督は次のように話す。
「どういうふうな考え、スタンスで練習や日々を過ごして試合に向かっていくか。試合は自分たちが準備したと仮定して必ず訪れる。それに対して自分たちがメンタルもフィジカルも良い状態で臨まないといけない。テクニックのところはそんなに簡単に良くならないので、戦術的なところとか、戦略的なところは継続してやりながら、一番いいパフォーマンスを出せるようにというのは心がけている」

鍵は自分たちのノーマルを発揮できるかどうかだと話す。
「プレスのはまりが悪いと一歩目が少し遅くなる。スタンドで見ていたら分かると思うが、それは我々のノーマルの状態とは違う。それをいかにノーマルに近づけられるか。それがG大阪戦の鍵」
理想は高いところにあるが、現時点のアビスパにはできないことも多い。けれども、それは承知の上で自分たちの最大出力を相手にぶつけ、ギリギリの勝負に持ち込み、どうにかして勝点を積み重ねることで一歩ずつ成長してきたのがアビスパ。それはG大阪戦に臨むにあたっても変わらない。

それはアビスパに関わる全ての人たちにも言えることだろう。それぞれの人たちが、それぞれの場所で、それぞれの方法で、アビスパとともに戦うこと。できないことをやろうとするのではなく、それぞれの立場でやれることを最大出力で発揮すること。チームの力は、クラブフロント、職員、チームスタッフ、選手だけの力ではなく、クラブを支えるスポンサー、ファン、サポーター、メディア、そして様々な形でアビスパと関わる全ての人たちの力の総和だからだ。

いまアビスパが苦しい状況に立たされていることは間違いない。けれど、それは次に進むために乗り越えなければいけない壁。サッカーの神様は、それを乗り越えてくるのを待っている。だからこそ、時に温かく、時に厳しく、そして切磋琢磨しながら前に進みたい。そして何があっても諦めずに前を向きたい。今のアビスパはそうやってここまで歩みを進めてきた。そして、あの日心に刻まれた「今日勝つためにずっと応援してきた」という言葉。その先に何があるのかを我々は知っている。

[中倉一志=取材・文・写真]

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