「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】【レポート 天皇杯2回戦 福岡-FC今治】凌我のゴールに沸いたベスト電器スタジアム。FC今治を下して3回戦へ

天皇杯 JFA 第103回全日本サッカー選手権大会 2回戦
2022年6月7日(水)19:00キックオフ
会場:ベスト電器スタジアム/2,033人
結果:アビスパ福岡 2-0 FC今治
得点:[福岡]ウェリントン(51分)、佐藤凌我(80分)

湧き上がる歓喜の声。スタジアムを包み込む大きな手拍子。それに応えて佐藤凌我がスタンドに向かって両手を高々と上げる。「サポーターの方もずっと待っていてくれた。ここで何とか1点取れたので良かった」と振り返るのは佐藤凌我。「凌我はアビスパに来て初ゴールだったということで僕自身も非常に嬉しく思う」と城後寿も佐藤の今シーズン初ゴールを祝福する。アビスパに関わる誰もが望んでいたゴールにスタジアムに歓喜の輪が広がった。

今年で103回目を迎えた天皇杯全日本サッカー選手権大会。プロ、アマを問わず一発勝負のトーナメント戦で国内最強を決める最古の大会はジャイアントキリングが多いことでも知られる大会。カテゴリーを問わず同じ土俵で戦う舞台で、下位のカテゴリーのチームは上位カテゴリーのチームに一泡吹かそうと高いモチベーションで臨んでくる。そんな大会では、J1のチームでさえ隙を見せれば簡単に足元をすくわれる。

この日の試合も天皇杯らしいものになった。いきなり鋭いシュートを放ったのはFC今治のマルクス ヴィニシウス。GK山ノ井拓己がファインセーブで防いだものの、FC今治のこの試合に懸ける想いが表れたシュートだった。その後はアビスパが試合を優勢に進める形で試合が進んだが、力の差を、内容・結果に結び付けられないままに前半が終了する。

そんなチームに長谷部茂利監督がハーフタイムに指示を送る。
「前半に取れないと、後半にズルズルといって1失点して負けるという形をこれまでの天皇杯でたくさん見てきた。そうならないようにチャンスをものにしよう」
そしてアビスパが前に出る。先制点は51分。右サイドで得たFKのキッカーは田中達也。右足から放たれた速くてきれいなカーブを描いたボールがウェリントンにピタリと届き、ウェリントンが当たり前のように頭で合わせた。

だが今治は下を向かない。「下を向くような、そういった振る舞いを見せたゲームではなかった」と髙木理己監督(FC今治)が振り返ったように、ここから前への意識を高くしてアビスパゴールを目指す。マルクス ヴィニシウスを1トップに、ドゥドゥ、中川風希をシャドーに置くトライアングルと、右WBの安藤一哉を中心に前がかりになり、64分には三門雄大、楠美圭史、中川風希に代えてパク スビン、山田貴文、武井成豪を投入して、さらに前への意識を高くする。

改めて振り返れば、この時間帯が勝負の分かれ目だった。「J1だったら決められてもおかしくないシーンもあった」と井上聖也が振り返ったように、今治は自分たちの力を存分に発揮していた。だが、結果としてこの時間帯にゴールが許さなかったことでアビスパに流れがやってくる。そしてアビスパは68分、前嶋洋太に変えて小田逸稀、城後寿に代えて紺野和也を投入。さらに76分にはルキアンに代えて山岸祐也を送り込んで勝負を決めに行く。

冒頭のゴールが生まれたのは80分。右サイドを突破した紺野和也からのクロスを山岸祐也がワンタッチで流す。高く浮いたボールが佐藤凌我の前に。ゴールに背を向けた体制だったが迷いはなかった。胸トラップでコントロールしたボールを右足で頭上へ浮かせて迷うことなくオーバーヘッドシュート。GK伊藤元太(今治)が懸命に伸ばした左手を越えてゴールネットを揺らした。これで勝負あり。アビスパは、7月12日に岐阜メモリアルセンター長良川競技場でFC岐阜と3回戦を戦う。

試合である以上、収穫もあれば課題もある。だが公式戦で5試合勝ちなしだったアビスパにとっては、この日の勝利はチームに新たな前向きのパワーを与える1勝になったことは間違いない。「今日でひとつのきっかけができた」と長谷部監督も口にする。次の試合は11日に行われるJ1リーグ第17節名古屋グランパス戦。優勝争いを演じる強敵だが、アビスパはいつものように最大出力を発揮して勝点を取りに行く。

[中倉一志=取材・構成・写真]

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