「football fukuoka」中倉一志

【フットボールな日々】:スタジアムで感じる喜びも悔しさもアビスパとともに未来へ向かう私たちだけに与えられた権利

週末だというのに朝早くから目が覚める。けれども眠気はない。むしろ、平日よりも目覚めはいいほうだ。身支度を整えネイビーのシャツを着てそそくさと家を出る。行先はベスト電器スタジアム。道中、同じような格好をして同じ方向へ向かう人たちを見てはボルテージが上がっていく。

スタジアムに着けば、いつもの仲間がいつもの場所で待っている。話題はもちろん、おらが町のチーム・アビスパ福岡のこと。なじみの屋台でスタグルを買い、ビールを片手に前節の試合の話題で盛り上がり、そして今日の試合に想いを馳せる。キックオフまではまだ数時間もある。けれども、もうサッカーは始まっている。サッカーは90分では終わらない。試合前の数時間。そして試合後の数時間。そのすべてを含めてサッカーだ。

初めてスタジアムに行った日のことは今でも鮮明に覚えている。階段を上った先に広がる青い芝生の美しさに心を打たれ、スタジアムに響き渡るチャントに心が沸き、その声援を背中に受けて戦う選手たちの姿を追った。失点に首をうなだれ、得点に大声を挙げ、あっという間に90分間が過ぎる。試合には負けた。けれども次の週末、またスタジアムに足を運ぶ自分がいた。

そんな週末が日常になってからもう何10年も経った。気が付けば、知り合った頃は独身だった仲間も今では大学生の子供を持つお父さん。まだ幼稚園児だったかわいい女の子はお酒をたしなむ歳になり、まだ言葉が話せず雁の巣で一緒にボールを蹴ることでコミュニケーションを取っていた小さな男の子は、今は高校の部活で全国大会を目指している。「おらが町のサッカークラブ」を通して、多くの人たちがつながる世界を見てみたい。そんな想いが今は現実になっている。

改めて振り返れば、アビスパの歴史は良いことばかりではなかった。むしろ悔しい想いや情けない気持ちになったことの方が多かったかもしれない。それでも、クラブとともに、チームとともに、そしてスタジアムに集う仲間とともに夢を追い続けてきた。思うような成績にはつながらなかったかもしれない。けれど、そこで戦い続ける選手の成長を感じ、彼らがサッカーにぶつける想いを共有してきた。それは地元に関わる私たちに与えられた特権。良い思い出も、そうでない思い出も、すべてが私たちだけが知る大切な記憶だ。

そして今、アビスパは私たちが見たことのない景色に向かってのチャレンジを続けている。数々の歴史と記憶に残る試合を積み重ねながら、2020年に4度目のJ1復帰を果たし、2021年には5年周期に終止符を打ち、今シーズンはJ2が創設された1999年以降初めて迎える3年目のJ1で、そのチャレンジを続けている。昨年までに築いた前線から仕掛けるアグレッシブな守備をそのままに、攻撃力をアップしてもう一つ上のアビスパになることがテーマだ。

着々と力は付いている。第12節を終えてホームゲームは5勝1敗。サポーターの声援を力に変えて、終了間際のゴールで劇的な勝利を重ねている。他方、アウェイでは未だ未勝利。そして、優勝候補に挙げられる力のあるチームには戦える時間があっても、最終的に力の差を感じさせられる試合が続いている。特に広島戦ではそれが顕著に現れた。だが、それがアビスパの現在地。悔しいけれど恥ずかしくはない。今は力を磨いている時。恥ずかしいのはそれを怠った時だ。そして、彼らが決して諦めないことを私たちは知っている。

これからも、私たちに夢と希望を与えてくれる試合をしてくれることだろう。思うようにならず悔しい思いでスタジアムを後にする試合もあるだろう。けれど、そのすべてがサッカー。そのすべてが次のアビスパへの、そして私たちへの糧になる。クラブとともに、チームとともに、そしてアビスパに関わるすべての人たちとともに、それぞれが、それぞれの場所から、それぞれの方法でともに戦うことで、次のアビスパが見えてくる。

まだまだこれから。アビスパに関わるすべての人たちと一緒に、変わっていく過程そのものを楽しみたい。それが私たちだけに与えられた権利だ。

[中倉一志=文・写真]

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