「football fukuoka」中倉一志

【無料記事】新体制発表会を終えて/より高みを狙うJ1での3年目の戦い。2023年型アビスパに求められる「+α」:【武丸の目】

まさに異口同音だった。1月7日、新体制発表会に登壇した長谷部茂利監督が「これまでの継続、またそこからの+α」と言えば、柳田伸明強化部長は「自分たちの良さを大切しながら+α」と言う。今のアビスパにとってやるべきことが改めて明確に示された。

昨シーズンの最終戦、試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、アビスパに関わる全ての人が安堵感に包まれたのは間違いない。シーズン途中、新型コロナウイルスの影響を受け、ベンチ入りの選手が足りない試合もあった。万全のコンディションでJ1の強敵に立ち向かえない試合もあっただろう。その中でルヴァンカップではクラブ史上初のベスト4進出(3位)を達成し、リーグ戦ではシーズン途中に目標を変えてJ1残留を果たした。2部制施行後、クラブとして初となる3シーズン連続J1で戦う権利を得たことは素晴らしいし、だからこそ「ほっとした」というところが正直な気持ちだ。

だが、冷静に振り返ってみるとチームの当初の目標は「リーグ戦8位以上」だった。新型コロナウイルスなど外的な影響があったとは言え、結果はもちろんゲーム内容に関しても思い描いたものとはシーズンが進むにつれて、少しずつ差が広がっていった。開幕戦ではジュビロ磐田を相手にJ1の強度を見せつけ、攻撃面での変化の兆しも見せた。その後もゴール期待値(XG)の高さが示すように得点チャンスは増えていたが、決定力が低く、負けている試合を引き分けに、引き分けている試合を勝利に結びつけられない試合が増えていき、終盤は盛り返したとは言え、もどかしさが残る2022年シーズンでもあった。

長谷部監督はその原因として質の低さを挙げる。質と言っても大きく分けて個人の質とチームの質の2つがあるだろう。個人の質は、端的に言えば個人の能力が大きい。ボール扱いの上手さ、運動量、判断の早さ、身体能力の高さなどがある。昨年のワールドカップで世界を魅了したアルゼンチン代表のリオネル・メッシやフランス代表のキリアン・エムバペは個人の質の高さを示す分かりやすい例だろう。当然、そう言った選手の年俸は驚愕的な金額だ。アビスパのクラブの財政規模などを考えれば獲得したい選手を全て揃えるのは不可能。だからこそ、個人の質を上げるべくアビスパのスタイルにフィットしつつ、個人能力の高い選手を予算内で補強している(柳田強化部長は新体制発表会で今後の補強も示唆)。その上で筆者が注目したいのはチームの質をどれだけ上げられるかだ。

良い守備からの良い攻撃を掲げるのが長谷部アビスパ。得点力不足解消が叫ばれる中で、フィニッシュの部分だけに目が行きがちだが、チームの質を上げるにはそれだけではなく、「ボールを奪う形」、「ボールを運ぶ形」、「ゴールを取る形」の3つの要素を全て上げなくてはならないだろう。

まずは、「ボールを奪う形」だが、アビスパは大きく分けて高い位置から連動してプレスを仕掛け、中盤でボールを奪うハイプレスと自陣で守備ブロックを築き、相手の攻撃を粘り強く跳ね返すリトリートの守備戦術を併用しているが、昨シーズンはアビスパに対する研究が進み、相手のビルドアップの工夫によってハイプレスをかいくぐられ、自陣に押し込まれて狙った形でボールを奪えない試合が多かった。その為、これは次の「ボールを運ぶ形」にもつながることだが、低い位置でボール保持が始まることで相手としてはファールを犯しても問題ないエリアで守備を開始でき、強度の高いカウンタープレスを繰り出しやすい。さらに、個人の技術の問題も相重なり、カットボールからの1・2本目のパスミスが散見し、再び自陣で守備をせざるを得ないという悪循環が多く発生していた。ここも克服しないといけない課題だ。

アビスパが目指しているのはボールを長く持ち続けることでもなく、華麗なパス回しをすることでもない。4バックでも3バックでもチームとしてやるべき基本的なタスクは同じ。チーム全体で連動してボールを奪い、縦に速くゴールに迫り続けることだ。状況に応じてどの位置でどのように効果的なプレッシングを仕掛けるのか、低い位置からでもどのような配置とボールの動かし方で効果的にゴール前にボールを運ぶのか。その2つの質を上げることが得点力向上の必要条件である。

この2つの必要条件をクリアする回数が増えることで最後の「ゴールを取る形」へチャレンジできる回数は必然的に増える。ただ、その回数を増やすことで得点増加が約束されるわけではないのがサッカーの難しさ。サイドアタックや中央突破、ハーフスペースの活用などゴールに結びつけられる形は様々あるが、各状況で最適な形を正確にプレーすることは容易ではない。もちろん、個人の質の高さも欠かせない。ただ、メッシやエムバペのように1人でゴールまで運び、ゴールを奪うこともできるスーパーな選手がいないアビスパにおいて、口で言うほど簡単ではないが、個人の質も高めつつ、どれだけコンビネーションによって攻撃のパターンを増やし、精度を上げられるかが得点力向上のカギになる。

「守備のデータでは我々は(J1の)トップ3に入っていくチーム」と話すのは長谷部監督。その守備に磨きをかけつつ、今シーズンの目標である「リーグ戦8位以上、カップ戦ベスト4以上」を達成するにはゴール量産は必須。アビスパの今シーズンの「+α」になるその「メカニズム」をどう築き上げていくのかに注目したい。

[武丸善章=取材・文/中倉一志=写真]

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